「採用できない仕事」を、そのまま募集していませんか?
2026年9月7日

●「この条件で、人を探してください」
採用支援の現場で求人について相談を受ける時、多くの場合はすでに「募集する仕事」が決まっています。
「正社員を1人採りたいです」「週5日、9時から17時まで働けるパートさんを探しています」「できれば経験者がいいです」。
そして、その条件を前提に「どの求人媒体を使えばいいですか?」「求人票をどう書けば応募が増えますか?」という相談になります。
もちろん、求人媒体や求人原稿を改善することで応募が増えることはあります。しかし最近、採用支援をしながら、その一つ手前で立ち止まることが増えました。
そもそも、その仕事は「今の労働市場で採用できる仕事」になっているのでしょうか。
求人原稿を変える前に。媒体を増やす前に。広告費をかける前に。募集しようとしている「仕事そのもの」を、一度疑ってみてもいいのではないかと思っています。
●企業は「人」を探す。でも求職者は「仕事」を選んでいる
企業側から採用を見ると、「人が足りない」という問題に見えます。だから、人を探します。しかし求職者側から見れば、少し景色が違います。
求職者は企業から「採用される人」になるために求人を探しているわけではありません。自分の生活、自分の時間、自分の経験、自分の将来に合う「仕事」を探しています。
「週5日、8時間勤務できる人がいない」という会社があったとします。企業からすると「働ける人がいない」ように見えます。しかし、週3日なら働ける人はいるかもしれない。午前中だけなら働ける人もいるかもしれない。子どもが学校に行っている時間だけ働きたい人もいる。定年後、週2〜3日なら経験を活かしたい人もいる。本業を持ちながら、週に数時間なら関われる人もいる。
以前の記事でも書きましたが、「人がいない」のではなく、今の働き方ではつながれていない人がいるという視点は、これからの採用では非常に重要だと思っています。
参考:https://www.katawara.co.jp/blog/message0007
問題は「働ける人がいない」ことではなく、「会社が用意している仕事の形に、働ける人が少ない」ことなのかもしれません。
●その「必須条件」は、本当に必須なのか
採用支援で求人条件を確認していると、よくあることがあります。「経験者が欲しい」という条件。「なぜ経験者でなければいけないのですか?」と聞くと、「教える時間がないから」という答えが返ってくる。これは「仕事を遂行するために経験が必要」という話とは少し違います。教育体制の問題です。
「週5日働ける人が欲しい」という条件。なぜ週5日なのかを聞くと、「今までそういう勤務体系だったから」。これも、業務上週5日が必須とは限りません。「普通自動車免許必須」と書いてある。でも確認すると、実際に運転するのは月に数回だけだった、ということもあります。
もちろん、本当に必要な条件もあります。資格がなければできない仕事もある。毎日その時間に人がいなければ業務が回らない仕事もある。経験者でなければ任せられない業務もあります。
問題は、「必要だから設定している条件」と「昔からそうだから残っている条件」が混在していることです。採用が難しくなった時に必要なのは、条件を緩めることではありません。その条件が本当に必要なのかを、仕事から逆算して確認することです。
●「人材要件」の前に「仕事要件」を考える
これまでKatawaraのブログでは、「人材要件」を言語化することの重要性について何度か書いてきました。
「"いい人"は、なぜ言語化できないのか?」
では抽象的な言葉を実際に確認できる行動まで落とし込む必要性について書いています。
https://www.katawara.co.jp/blog/message0011
『採用基準』はなぜすぐに形骸化するのか」
では抽象的な言葉を実際に確認できる行動まで落とし込む必要性について書いています。
https://www.katawara.co.jp/blog/message0037
これらは今も重要だと思っています。ただ、そのさらに前に一つ問いがあります。「その人に、何をしてもらいたいのでしょうか。」
人材要件を考える前に仕事要件を考える。
「営業職を1人採用したい」では、まだ粗い。営業の仕事を分解してみると、新規顧客を探す、アポイントを取る、商談する、提案資料をつくる、見積書を作成する、契約後にフォローする、既存顧客との関係を維持する。一言で「営業」と言っても、必要な能力はそれぞれ違います。そして、本当にこのすべてを一人に任せる必要があるのでしょうか。
●一人分の仕事を一人に任せる必要はないかもしれない
「フルタイムの事務員を1人採りたい」という会社があるとします。しかし仕事を分解してみると、午前中に集中している入力業務・月末だけ発生する請求処理・電話対応・書類整理・専門知識が必要な経理業務・SNSの更新。すべて性質が違います。
これを「事務員1名・週5日・9時〜17時・事務経験者」という条件で募集すると、採用対象は一気に狭くなります。しかし仕事を分解すれば、入力業務は午前中だけ働きたい人・経理は経験のある人に週1日・SNSは別のスタッフ・繁忙期だけスポットで補う、という設計も考えられます。
もちろん、すべての会社ですぐにできるわけではありません。業務効率が悪くなるケースもありますし、情報管理や教育の問題もあります。「仕事を全部細切れにすればいい」という話ではありません。重要なのは、「1人辞めたから、同じ条件でもう1人採る」以外の選択肢を持つことです。
●「欠員補充」という考え方が、仕事を固定してしまう
採用が難しくなった今、私は「欠員補充」という言葉そのものを少し疑ってみてもいいと思っています。
Aさんが辞めた。だから、Aさんと同じ仕事ができる人を探す。これは自然な発想です。しかしAさんが5年間担当してきた仕事は、その5年間で少しずつ増えているかもしれません。「これもAさんにお願いしよう」「これもできるから任せよう」。そうやって一人の仕事の中にさまざまな業務が積み上がっていく。そして退職すると、その全部ができる「次のAさん」を探し始めます。
経験があって、PCが使えて、顧客対応ができて、電話も取れて、できれば経理も分かって、フルタイムで働けて、長く続けてくれる人。当然、対象者は少なくなります。採用市場にそんな人がいないのではなく、一人の人に求めるものを積み上げすぎている可能性があります。
欠員が出た時こそ、「この仕事は本当にこの形で残すべきなのか」を考える機会です。
●「従業員」という箱から考えない
以前「『従業員』の定義を、そろそろ変える時が来ている」という記事を書きました。
https://www.katawara.co.jp/blog/message0024
正社員か、そうでないか、フルタイムで雇用するか、しないか。この二択ではなく、パートタイム・副業・業務委託・スポット勤務・プロジェクト単位など、企業と人との関わり方そのものを広げて考える必要があるという内容です。
今回の「仕事を分解する」という考え方は、この話ともつながっています。先に「正社員を採る」と決めるのではありません。まず「会社として、どんな仕事を遂行する必要があるのか」を考える。その上で、誰がやるのか・何時間必要なのか・どんなスキルが必要なのか・社内でなければできないのか・毎日必要なのか・雇用する必要があるのかを考える。
すると初めて、正社員なのか、パートなのか、副業人材なのか、業務委託なのか、スポットワークなのか、あるいはそもそも人がやる必要があるのかという選択肢が出てきます。
「雇用形態→仕事」ではなく、「仕事→人→関わり方」の順番です。
●採用できないならターゲットを広げる。その前に
採用が難しくなると、「年齢を広げましょう」「未経験OKにしましょう」「主婦層もターゲットにしましょう」「シニアも考えましょう」といった提案が出てきます。
これ自体は間違いではありません。しかし、募集する仕事が何も変わっていないのに、ターゲットだけ広げても採用できないことがあります。
「子育て世代も歓迎」と求人に書いているのに、勤務時間は9時〜18時固定。「シニア歓迎」なのに、仕事内容は若手とまったく同じ体力仕事。「未経験歓迎」なのに、入社後すぐ一人で仕事を任される。これでは、求人票上のターゲットだけを広げている状態です。
人を変えるなら仕事も変える必要があります。「この人たちを採りたい」ではなく、「この人たちが活躍できる仕事を、会社としてつくれるか」。ここまで考えて初めて、ターゲットを広げる意味が生まれます。
●採用条件を「下げる」のではなく、仕事との接続精度を上げる
仕事を分解することは、採用基準を下げることではありません。むしろ逆です。何を任せたいのかが明確になるほど、その仕事に本当に必要な能力も明確になります。
「コミュニケーション能力が高い人」ではなく、「来店されたお客様の要望を聞き取り、必要な情報を担当者に正確に共有できる人」。「PCスキルがある人」ではなく、「決められたフォーマットへ数字を正確に入力できる人」。
ここまで仕事が具体化すれば、採用基準も具体化します。つまり、仕事を分解する→必要な能力が分かる→採るべき人が分かる→求人で伝える内容が変わる→面接で確認することが変わる、という流れです。採用の精度を上げるためにも、仕事の解像度を上げる必要があります。
●最低賃金が上がる時代だからこそ、仕事の設計が重要になる
先日の「最低賃金が上がり続ける時代に採用設計はどう変わるべきか」でも、最低賃金への対応を「時給を修正するだけ」で終わらせず、仕事や働き方そのものを見直す必要性について書きました。
https://www.katawara.co.jp/blog/message0047
人件費が上がるのであれば、なおさら「この仕事に、本当にこの時間数が必要なのか」を考える必要があります。これは単なるコスト削減ではありません。
人の時間の価値が上がるからこそ、その時間を何に使ってもらうのかを考える。定型作業はシステム化できないか。AIに任せられる部分はないか。外部へ切り出せる仕事はないか。短時間勤務でも成立するように仕事を組み替えられないか。人にしかできない仕事は何なのか。
最低賃金の上昇は、「人をどう安く雇うか」を考える機会ではありません。「人に何を任せるのか」を問い直す機会でもあると思っています。
●求人広告では解決できない採用課題がある
ここまで考えると、採用がうまくいかない時にすぐ求人広告を直すことの限界も見えてきます。求人広告会社は求人を魅力的に見せることができます。求人媒体はより多くの人に求人を届けることができます。人材紹介会社は条件に合う人を探すことができます。
しかし「その仕事を、どんな仕事として設計するのか」は、外部の採用手法だけでは決められません。それは、事業をどう運営するのか、組織をどうつくるのか、誰に何を任せるのか、どんな人に活躍してもらうのか、という経営の問題だからです。
以前「なぜ経営者は『採用』だけ外注してしまうのか?」という記事で、採用は広告活動ではなく、経営そのものが映し出される活動だと書きました。
https://www.katawara.co.jp/blog/message0015
今回のテーマは、まさにその具体論です。採用を変えようとすると、最後は仕事の設計にたどり着く。そして仕事の設計を変えることは、組織の設計を変えることでもあります。
●「人がいない」の前に、「仕事はこのままでいいのか」
人口減少が進んでいることは事実です。地方では、これからさらに働き手の確保が難しくなるでしょう。だからといって「人がいないから仕方がない」で終わってしまえば、選択肢は狭くなる一方です。
人が減るのであれば、これまで10人でやっていた仕事を本当に同じ10人でやり続ける必要があるのか。フルタイムでなければできなかった仕事を、短時間でもできるようにできないか。経験者しかできなかった仕事を、未経験者でもできるようにできないか。一人に任せていた仕事を、複数の人が関われる形にできないか。人がやっていた仕事を、仕組みやテクノロジーに置き換えられないか。
そう考えると、採用の可能性はもう少し広がります。
採用とは、「空いている椅子に座ってくれる人を探すこと」だけではありません。場合によっては、その椅子の形そのものを変えること。それも採用設計なのだと思います。
●最後に
「応募が来ない」「経験者が採れない」「フルタイムで働ける人がいない」。そんな時、求人媒体を変えたり時給を上げたりする前に、一度問い直してみてください。
その仕事は、本当にその形でなければならないでしょうか。
人がいないから採れない。それも事実かもしれません。しかし「今の労働市場では採用しにくい仕事を、そのまま募集している」という可能性もあります。
人を仕事に合わせるだけではなく、仕事を人に合わせて再設計する。そのためには、仕事を分解する・必要な能力を整理する・働き方を考える・関わり方を考える。そして初めて、「誰を採るか」を考える。この順番が、これからますます重要になると思っています。
「どうすれば人を採れるか」という問いから、「どうすれば、人が活躍できる仕事をつくれるか」へ。採用をそこまで広げて考えると、人手不足に対する企業の選択肢も、まだ増やせるのではないでしょうか。
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株式会社Katawaraは、「採用で、経営を変える」をテーマに採用支援を行っています。求人媒体や求人原稿を改善するだけでなく、「本当にこの採用条件でいいのか」「仕事を分解できないか」「別の働き方をつくれないか」といった、採用の前提そのものから経営者と一緒に考えることも、私たちの支援の一つです。お気軽にご相談ください。
