「採用基準」はなぜすぐに形骸化するのか
2026年8月5日

●「採用基準を決めています」という会社の、その後
採用支援の現場で、こんな会話をすることがあります。
「採用基準は決めてありますか?」
「あります。主体性があって、素直でコミュニケーション能力が高い人です。」
「その基準を、面接でどう確認していますか?」
「……面接官の判断に任せています。」
この会話のパターンは、非常によく見ます。
基準はある。でも使われていない。あるいは、使われているつもりだが、面接官によって解釈がバラバラになっている。
「採用基準を決めた」という事実が、採用の精度を上げているわけではありません。
●「性格・態度」で止まっている採用基準
採用基準が形骸化する最初の原因は基準の「粒度」にあります。
「主体性がある人」「素直な人」「コミュニケーション能力が高い人」。
これらは採用基準として広く使われている言葉です。しかし、これらは「性格・態度」の言語化にとどまっており、面接で確認できる「行動」に落ちていません。
「主体性がある」とはどういう状態か。どんな場面で、どんな行動をしている人のことか。「素直」とは何か。指示に従うことか。フィードバックを受け入れることか。それとも自分の考えを持ちながらも柔軟に変えられることか。
言葉の定義が人によって違う。だから、同じ基準を持っているつもりでも、面接官によって「主体性がある」と感じる候補者が変わってしまいます。
採用基準とは、全員が同じ場面を思い浮かべられるくらい、具体的な行動として表現されていなければ、基準として機能しません。
●面接官が複数いると、基準がバラバラになる
採用基準の形骸化が最もわかりやすく現れるのは、複数の面接官がいる場合です。
一次面接は現場のリーダーが担当し、二次面接は部長、最終面接は社長が担当する。こういう構造はよくあります。
問題は、それぞれの面接官が「良い人」のイメージを別々に持っていることです。
現場のリーダーは「即戦力として動ける人」を求めている。部長は「将来的にチームを引っ張れる人」を見ている。社長は「うちの文化に合う人」を感じ取ろうとしている。
一人の候補者が、一次は通過したのに二次で落ちた。最終まで進んだのに社長の「なんか違う」で落とされた。
こういうことが起きる時、多くの場合、面接官間で採用基準が共有されていません。
全員がそれぞれの「直感」で評価しているだけです。
これは採用基準があると言えるでしょうか。
●基準はあっても「使い方の設計」がない
もう一つ、見落とされがちな問題があります。
採用基準を作っても、「どう使うか」の設計がない企業が多いことです。
基準を紙に書いた。評価シートを作った。でも面接の場で何を聞くかは、面接官それぞれに任されている。評価シートは面接後に「振り返りとして」書くだけで、面接中の判断には使われていない。
これでは、基準を作った意味がありません。
採用基準を「使う」とはどういうことか。具体的には三つの設計が必要です。
一つは「確認する質問」の設計です。この基準を満たしているかどうかを確認するために、面接でどんな質問をするか。前回の記事でお伝えした行動面接の手法がここで機能します。
二つ目は「評価の判断軸」の設計です。候補者の回答が基準を満たしているかどうかを、どう判断するか。「高評価の回答例」「低評価の回答例」を面接官間で共有しておくことで、評価のブレを小さくできます。
三つ目は「面接後のすり合わせ」の設計です。複数の面接官が同じ候補者を評価した後、「なぜその評価をしたか」を言葉で説明し合う場を持つ。この場でズレが生まれた時こそ、基準を磨くチャンスです。
●担当者が変わると、採用がリセットされる
採用基準の形骸化が最も深刻な形で現れるのは、採用担当者が変わった時です。
前任の採用担当者が持っていた「うちに合う人の感覚」は、その人の頭の中にしかありませんでした。引き継ぎ書には「主体性・素直さ・コミュニケーション能力」と書いてあるだけ。
新しい担当者は、その言葉を見ても何も判断できません。結果として、一から「うちに合う人」を手探りで探すことになります。
採用の精度は、組織に蓄積されていきません。担当者が変わるたびにリセットされていく。
これは採用の属人化と呼ばれる問題です。
採用基準が「紙に書いてあるだけ」の状態では、担当者が変わった瞬間に採用の精度が崩れます。
採用基準を組織に根付かせるためには、「誰が担当しても同じ判断ができる状態」を設計しておく必要があります。
●「決めること」ではなく「使い続けること」が目的
採用基準についての最も大きな誤解は、「決めることがゴール」になってしまうことです。
採用基準を決めた時点で「採用の仕組みができた」と感じてしまう。しかし実際には、決めた瞬間がスタートラインです。
採用基準は、使い続けることで育っていきます。
採用した人が活躍した時に「この人のどの行動が、基準のどの部分と一致していたか」を振り返る。早期離職が起きた時に「見極められなかった部分はどこか」を検証する。面接官が評価にズレた時に「なぜズレたか」を話し合い、基準を修正する。
この繰り返しの中で、採用基準は「言葉」から「組織の判断軸」へと変わっていきます。
一度作ったら終わりではない。採用を重ねるたびに問い直し、修正し、育てていくもの。それが採用基準の本来の姿です。
●「使える採用基準」かどうかを確かめる、三つの問い
今自社に採用基準がある方は、次の三つを問い直してみてください。
一つ目。「その基準を、面接でどう確認しているか」を、採用担当者以外の面接官も答えられますか。答えられなければ、基準は共有されていません。
二つ目。「その基準を満たしている人の、具体的な行動のイメージ」を、全員が同じように描けますか。描けなければ、基準は行動に落ちていません。
三つ目。「担当者が変わっても、同じ基準で採用できますか。」できなければ、採用は属人化しています。
この三つに自信を持って「はい」と答えられる企業は採用の再現性が高い。逆に一つでも難しいと感じる部分があれば、そこに採用基準の形骸化が起きています。
●採用基準は、組織の「判断の言語」
採用基準とは、組織が「良い採用とは何か」を共通の言葉で語るための道具です。
その言語が整っている組織は、採用の話し合いができます。「なぜこの人を採るのか」「なぜこの人は違うのか」を、感覚ではなく言葉で議論できる。
その言語が整っていない組織では、採用の話し合いができません。「なんとなく良さそう」「なんか違う気がする」という感覚が、判断の根拠になり続けます。
採用基準を整えることは、採用の共通言語を組織に作ることです。
その言語が組織に根付いた時、採用は担当者個人の能力に依存せず、組織として再現できるものになります。
あなたの会社の採用基準は、今日も「使われていますか」?
株式会社Katawaraは、「採用で、経営を変える」をテーマに採用支援を行っています。
採用基準の言語化・面接設計・評価のすり合わせ設計など、採用の「再現性」を組織に根付かせることも、私たちの支援の一つです。お気軽にご相談ください。
