採用業務は外部化できる。でも、「採用の判断」まで外部化していいのか?
― RPO・AI面接時代に「採用の内製化」が意味すること
2026年9月29日

この記事で分かること
2026年9月の厚生労働省の業務運営要領改正が示す「採用判断」の境界線
RPO・AI面接を使う企業が自社に残すべきものとは何か
「採用の内製化」の本当の意味
厚生労働省が「職業紹介」の具体例を見直した
2026年9月14日から適用される職業紹介事業の業務運営要領が改正されました。今回の改正では、「募集情報等提供」と「職業紹介」の区分について、具体例の追記・修正が行われています。
※一次情報は厚生労働省の職業紹介事業に係る法令・指針のページをご参照ください。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/shoukaihourei.html
一見すると人材紹介会社やRPO、AI面接サービスなど採用支援事業者側のルールの話に見えます。しかし内容を読んでいると、企業側にとっても重要な問いが含まれていると感じました。
「採用のどこまでを、外部に任せていいのか」という問いです。
そもそも「職業紹介」とは何か
今回の話を理解するために、少しだけ制度の話をします。
厚生労働省の業務運営要領では、募集情報等を提供するだけの場合と「職業紹介」に当たる場合を区別しています。
今回改正された要領では、事業者自身の判断によって以下のような行為を事業として行う場合、職業紹介に該当し得るという考え方が示されています。
求職者や求人の情報を選別して提供する
提供相手に応じて情報を加工する
求人者と求職者との意思疎通を中継する際に、意思疎通の内容に加工を行う
そして重要なのは、こうした判断がAIによって自動的に行われる場合も含まれるという点です。人が行うかAIが行うかではなく「誰の判断によって、求職者と求人との間に介在しているのか」が重要と読めます。
具体例で見る「業務委託できること・できないこと」
今回の要領で示された面接代行の具体例が、採用における「自社と外部の分かれ目」を考える上でとても分かりやすいと感じました。
職業紹介に当たらない例(外部に任せられる業務)
企業があらかじめ設定した質問に基づいて面接を実施する
面接を録画・録音し、文字起こしして企業へ提供する
日付などの付記をして企業へデータを渡す
職業紹介に当たり得る例(企業側が担うべき判断)
企業が設定していない質問を、事業者側の判断で独自に行う
「貴社において採用すべき人材です」などの評価を付けて企業へ提供する
この対比が示しているのは、面接という「業務」を代行することと、採用という「判断」に踏み込むことは同じではないということです。
もちろん実際に職業紹介に該当するかどうかは個々のサービスや運用実態によって判断されるため、一律に決められる話ではありません。ただ、この具体例は採用を外部化しようとしている企業にとっても、重要な問いを含んでいます。
「面接をすること」と「採用を判断すること」は違う
AI面接でも同じ問いが生まれている
今回の業務運営要領の改正を受け、AI面接サービスを提供するPeopleXは2026年9月28日、自社サービスの対応状況を発表しました。
同社によれば「PeopleX AI面接」では、面接で使用する質問を利用企業が事前に設定し、深掘り質問についても企業側が有無や方向性を選択する設計としています。
また面接後の評価レポートについても、客観的な分析結果を提示するもので「採用すべき」といった採用判断に踏み込む文言は含まないと説明しています。
そのうえで同社は、自社サービスについて今回示された「職業紹介にあたる例」には該当しないとの見解を示しています(同社による説明・見解として捉える必要があります)。
さらに興味深いのは、PeopleXのAI倫理ガイドラインでも、AIによる評価を人間の採用判断を支援する参考情報と位置づけ、最終的な意思決定は人間が行うことを原則としているという点です。
ここにも「AIは判断を『支援』する。でも最終的な採用判断は企業側に残す」という考え方が明確に示されています。AI面接サービスを提供する企業自身が、この境界線を意識して設計しているということです。
では「最終判断だけ人間」なら十分なのか
ただ、ここからもう一歩考える必要があると思っています。
AIが面接し、回答を分析し、評価レポートを出す。最後に人間が画面を見て「採用」ボタンを押す。これだけで本当に企業が採用判断をしていると言えるでしょうか。
大切なのは、最後に誰がボタンを押したかだけではありません。何を質問するのか、回答の何を見るのか、どんな行動を高く評価するのか、何を理由に不採用とするのか。この「判断基準の設計」を誰が担っているのかが重要ではないでしょうか。
「主体性のある人をお願いします」は、採用基準を渡している
採用基準を言語化していない会社が陥る落とし穴
採用支援をしていると、「コミュニケーション能力の高い人」「主体性のある人」「うちに合いそうな人」といった言葉をよく聞きます。問題は、それが具体的にどんな行動なのかを企業自身が説明できるかどうかです。
「主体性」一つとっても、指示される前に行動することなのか、問題を発見して提案することなのか、会社によって求める意味は違います。それを定義しないまま「主体性のある人を見つけてください」と外部の採用会社やAIに依頼したらどうなるでしょうか。評価する側が自分たちなりの「主体性」を定義するしかありません。
企業自身が気づかないうちに、採用業務だけでなく採用基準まで外部化してしまう可能性があります。
AI面接が普及するほど、採用基準の言語化が求められる
人間同士の面接なら「なんとなく良かった」「話した感じがうちに合いそうだった」という判断が成立してしまいます。しかしAIに任せようとすれば、「何を聞くのか」「何を見るのか」「どう評価するのか」を設定する必要があります。
以前「採用における『直感』を、信じていいのか」「『なんとなくいい人』を採用基準に変える方法」という記事でも書いてきたことです。AI面接の本当のハードルは、AIの性能だけではありません。企業側が自社の採用判断をどこまで言語化できているかも問われます。
参考①:https://www.katawara.co.jp/blog/message0030
参考②:https://www.katawara.co.jp/blog/message0031
RPO・AI面接を使うことが問題なのではない
外部化すべき採用業務と、自社に残すべき採用判断
ここは誤解のないようにしたいところです。今回の話は「RPOを使うべきではない」「AI面接は危険だ」という話ではありません。
採用業務には多くの時間がかかります。求人媒体の管理、スカウト送信、応募者対応、面接日程の調整、面接記録の作成。こうした業務を外部サービスやAIで効率化することには大きな価値があります。中小企業では専任の採用担当者がいない会社も少なくありません。だからこそ外部の専門家やテクノロジーを積極的に使えばいいと思っています。
ただし「何を任せるのか」を決めるためには、「何を自社に残すのか」も決めなければなりません。
外部化できる採用業務の例
求人媒体の管理・運用
応募者との日程調整・連絡対応
企業が設定した質問に基づく面接の実施・録画・文字起こし
求人原稿の作成補助・データ整理
自社に残すべき採用判断の例
誰を必要としているのか、なぜ必要なのか
どんな行動を評価するのか(採用基準の設計)
面接で何を聞くのか、何を見るのか
なぜその人を採用するのか
入社後に何を期待するのか
「採用の内製化」は、全部自分でやることではない
内製化の本当の意味
Katawaraでは「採用の内製化」を支援しています。内製化というと「面接も全部社員がやる」という意味に受け取られることがあるかもしれませんが、そうは考えていません。
外部の力を借りてもいい。RPOを使ってもいい。AIを使ってもいい。人材紹介会社を使ってもいい。重要なのは、自社が採用の判断軸を持っていることです。
誰が必要なのか。なぜ必要なのか。どんな行動を評価するのか。なぜその人を採用するのか。これを企業自身が説明できる。そのうえで「ここは自社でやる」「ここは外部に任せる」「ここはAIに任せる」と選択できる。私はこちらの方が本当の意味での採用の内製化に近いと思っています。
外部化するほど「設計」は自社に残す
これは採用に限った話ではありません。
マーケティングを広告会社に依頼しても「誰に何を売りたいのか」まで広告会社任せにはしないはずです。製造を外部委託しても「どんな商品をつくるのか」という商品戦略まで委ねるわけではありません。
外部の専門家を使うことと自社の意思決定を手放すことは違います。採用も同じです。実務を外部化すればするほど、「誰を採るのか」という設計はむしろ企業側が強く持つ必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q. RPO(採用代行)を使うと採用の判断まで外注することになりますか?
A. 必ずしもそうではありません。面接の実施・記録・日程調整などの業務をRPOに任せながら、「誰を採るのか」「何を評価するのか」という採用基準の設計を自社で持つことが重要です。採用基準が言語化されていれば、RPOに正しく依頼することができます。
Q. AI面接ツールを使う場合、企業側は何を設定する必要がありますか?
A. 面接で使用する質問の設定、深掘り質問の方向性、評価の観点が最低限必要です。「主体性のある人を選んでください」という抽象的な指示ではなく、「どんな行動が主体性と言えるのか」まで言語化した上でAIに設定することで、マッチング精度が上がります。
Q. 採用の内製化とは何ですか?
A. すべての採用業務を社内だけで行うことではありません。外部サービスやAIを活用しながらも、「なぜこの人を採るのか」を自社の言葉で説明できる状態をつくること。採用判断の軸を自社に持つことが、採用の内製化の本質です。
まとめ:採用業務と「採用の意思決定」を分けて考える
今回の厚生労働省の業務運営要領改正は、採用支援事業者だけでなく、採用する企業自身にも重要な問いを投げかけています。
採用業務は外部化できる。AIによって効率化できる。しかし「誰を必要としているのか」「何を評価するのか」「どんな人と会社をつくりたいのか」という部分まで外部へ渡してしまえば、採用は企業自身の意思決定ではなくなっていきます。
そして、これは単なる人事・採用業務ではなく、どんな人とこれからの会社をつくるのかという経営判断です。
RPOやAI面接の進化によって採用はこれからもっと便利になります。中小企業ほど積極的に活用すればいい。ただその前に、企業側が持っておかなければならないものがあります。
「私たちは、どんな人を、なぜ採用したいのか」という答えです。これがなければ、面接質問もつくれません。AIにも正しく指示できません。外部の採用支援会社にも正しく依頼できません。
採用業務は外部化できる。だからこそ最後に企業側に残る、「誰と会社をつくっていくのか」という判断まで外部化していいのか。今一度、考えてみてほしいと思います。
参考情報・一次情報
厚生労働省「職業紹介事業に係る法令・指針」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/shoukaihourei.html
全国民営職業紹介事業協会「令和8年9月14日から適用される職業紹介事業の業務運営要領」https://www.minshokyo.or.jp
※本記事は採用設計の観点からの考察です。職業紹介の該当性など法的判断については、専門家(社会保険労務士・弁護士)にご確認ください。
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RPOやAI面接ツールの活用を検討しながらも、「どの業務を外部化し、どの判断を自社に残すか」の整理から、採用ターゲットの言語化・採用基準の設計・内製化の仕組みづくりまで、経営者の皆さまと一緒に考えることが私たちの支援の一つです。お気軽にご相談ください。
