「なんとなくいい人」を採用基準に変える方法
2026年7月22日

前回の記事「採用における『直感』を、信じていいのか」の中で、こんなことをお伝えしました。直感を排除するのではなく、「言語化する」ことが答えであると。
参考:https://www.katawara.co.jp/blog/message0030
「なんとなく合いそう」という感覚を持った後に、「なぜそう感じたのか」を問うことで、直感が採用基準の素材になっていく、と。ただ、ここで「では、具体的にどうやって言語化するのか」という問いが残ります。
この記事では、その「どうやって」を解説したいと思います。
●「コンピテンシー」という考え方
採用基準を言語化する上で、「コンピテンシー」という考え方が参考になります。
難しい言葉に聞こえますが、意味はシンプルです。
高い成果を出している人に共通している行動特性のことです。スキルや知識ではなく、どう考え、どう動くかという行動のパターンに注目する考え方です。
たとえば、「コミュニケーション能力が高い人がほしい」という採用基準は、よく聞きます。
しかしこれは、コンピテンシーではありません。
コンピテンシーとして表現するなら…例えば、相手の状況を観察しながら、伝え方を柔軟に変えられる。反対意見が出た時に、感情的にならず相手の意図を確認できる、などです。
能力の有無ではなく「具体的な行動」として表現することで、面接で確認できる基準になります。
●自社の「活躍している人」から逆算する
コンピテンシーを作る上で、最も重要な出発点があります。「自社で活躍している人は、どんな行動をしているか」を観察することです。
外部のコンピテンシーモデルを参考にすることもできます。ただ、どの会社にも当てはまる汎用的な基準よりも、「自社で活躍している人の行動」から作った基準の方が、採用精度は上がります。
具体的には、以下の手順で進めます。
まず、自社で「この人は活躍している」と思える人を3〜5人思い浮かべてください。役職や年齢は関係ありません。
次に、その人たちに共通している「行動」を書き出します。ポイントは「性格」ではなく「行動」で表現することです。責任感があるではなく「問題が起きた時に、原因を自分の側で探そうとする」。積極的ではなく「指示がなくても、次に何が必要かを考えて動く」などです。
この作業を、できれば複数人で行うことをお勧めします。経営者・現場のリーダー・採用担当者など、異なる立場の人が集まることで、一人では気づかない行動パターンが見えてきます。
●アルバイト・パートの現場では「店長のお気に入り」から始める
ここまでは、主に正社員採用を想定した話です。しかしアルバイト・パートの採用現場では、「活躍している人」という概念自体が薄いケースがあります。
シフトをしっかり入ってくれる人・長く続けてくれる人・お客様への対応が丁寧な人。こうした像はあっても、「うちで活躍している人の行動特性」として整理されていることは、ほとんどありません。
そんな現場で私がよく使っていた問いかけがあります。
「店長のお気に入りのスタッフは、誰ですか?」
この問いを投げると、たいてい迷わず名前が出てきます。
「Aさんですね。明るくて、何でも頼めて、お客様からも評判がいい。」そこからです。
「Aさんの、どんなところが気に入ってますか?」「Aさんが他のスタッフと違うと感じる瞬間はどんな時ですか?」「Aさんみたいな人がもう一人いたら、どんないいことがありますか?」こうした問いを重ねることで、「なんとなく気に入っている」という感覚が、少しずつ言葉になっていきます。
さらに、可能であればそのスタッフ本人に話を聞きます。
「なぜここで働き続けているんですか?」「この仕事のどんなところが好きですか?」「どんな人と一緒に働きたいですか?」本人の言葉の中に、その職場の文化・価値観・居心地の良さの理由が宿っています。
これは採用広報の素材にもなりますし、「次に採りたい人物像」を定義するための最良の情報源にもなります。「店長のお気に入り」への取材が、アルバイト・パート採用のコンピテンシーを掘り起こす、最もシンプルで確実な方法です。
●面接で「行動」を確認する質問設計
コンピテンシーが言語化されたら、次は「面接でどう確認するか」という設計です。
ここで有効なのが「行動面接(BEI:Behavioral Event Interview)」という手法です。
難しく聞こえますが、基本的な考え方はシンプルです。「過去の具体的な行動は、未来の行動を予測する」という前提に立ち、実際にあった出来事を聞くことで、候補者の行動特性を確認します。
たとえば、「主体的に動ける人」というコンピテンシーを確認したい場合、こう聞きます。「これまでの仕事や学校生活の中で、誰かに言われる前に自分から動いた経験を教えてください。その時、何がきっかけで動こうと思ったのですか?」
「どんな状況でしたか」「あなたは具体的に何をしましたか」「その結果どうなりましたか」という流れで深掘りすることで、「主体的に動く」という行動が実際にあったかどうかを確認できます。
ここで重要なのは、「あなたはどんな人ですか」という抽象的な問いではなく、「あの時、あなたはどうしましたか」という具体的な過去の行動を聞くことです。抽象的な問いには、誰でも良い答えを用意できます。しかし具体的な過去の行動を詳しく聞いていくと、実際の行動パターンが見えてきます。
アルバイト・パートの面接では、仕事経験が少ない候補者もいます。その場合は「学校生活・部活・アルバイト・日常の出来事」など、幅広い文脈で経験を引き出すことで、同じ行動特性を確認できます。
●複数の面接官で「基準」を揃える
コンピテンシーを言語化し、質問設計ができたら、最後に重要なことがあります。
複数の面接官が、同じ基準で評価できているかを揃えることです。
どれだけ丁寧に基準を作っても、面接官によって解釈がバラバラでは意味がありません。揃えるための手順は二つあります。
一つは、評価基準の「具体例」を共有することです。たとえば「主体的に動ける人」のコンピテンシーに対して、「これは高評価」「これは低評価」という具体的な回答例を面接官間で共有しておくことで、評価のブレを小さくできます。
もう一つは、面接後の「すり合わせ」を仕組みとして持つことです。複数の面接官が同じ候補者を評価した後、「なぜその評価をしたか」を言葉で説明し合う場を作ります。この場で「そこはそういう意味じゃなくて」という会話が生まれた時が、基準を揃えるチャンスです。
なお、中小企業では専任の採用担当者がいないケースも多く、経営者や現場のリーダーが面接を担当することがほとんどです。
だからこそ「基準を揃える」という意識が特に重要になります。採用の判断が経営者一人の直感に依存している状態では、担当者が変わった瞬間に採用の精度がリセットされてしまいます。
●「なんとなく」が「根拠」に変わる
コンピテンシーを設計し、行動を確認する質問を作り、複数の面接官で基準を揃える。このプロセスを経ることで、「なんとなくいい人」という感覚が、「なぜこの人が自社に合うのか」という根拠に変わります。
採用の判断が言語化されると、振り返りができるようになります。採用した人が活躍した時も、早期離職した時も、なぜそうなったのかを検証できる。次の採用に活かせる。これが、採用の精度が組織に積み上がっていく仕組みです。
一度作ったら終わりではありません。採用を重ねるたびに「この基準で見極められたか」「見落としたポイントはなかったか」を問い直すことで、コンピテンシーは育っていきます。
●まず、この問いから始めてみてください
今すぐ始められることがあります。正社員採用なら、自社で「この人は活躍している」と思える人を一人思い浮かべて、こう問うてみてください。「この人は、どんな場面で、どんな行動をしているから、活躍していると感じるのか。」
アルバイト・パート採用なら、こう問うてみてください。「うちの店長のお気に入りのスタッフは、誰ですか?その人のどんなところが気に入っているか?」その答えを言葉にしたものが、あなたの会社の採用基準の最初の一欠片です。「なんとなくいい人」を言語化する旅は、そこから始まります。
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株式会社Katawaraは、「採用で、経営を変える」をテーマに採用支援を行っています。正社員・アルバイト・パートを問わず、コンピテンシーの設計・面接の質問設計・採用基準の言語化と仕組み化を一緒に進めることも、私たちの支援の一つです。お気軽にご相談ください。
