「ふるさと住民」は、地方の人手不足を変えられるか?
― 関係人口を「地域の担い手」へつなぐ、新しい採用設計
2026年10月12日

人口減少が進み、若い世代は都市部へ流出する。求人を出しても応募が来ない。採用条件を見直しても中々状況が変わらない。地方の中小企業から、そんな声を聞くことがあります。
こうした課題に対し、少し違う角度から考えるきっかけになりそうなニュースがありました。
総務省が、居住地以外の地域に継続的に関わる人を登録する「ふるさと住民」制度を、2027年3月に開始する方針だというものです(2026年10月10日報道)。
この制度を単なる地方創生施策としてではなく、地方企業の採用市場を捉え直すきっかけとして注目しています。
ただし、制度が始まれば地方の人手不足が解消するという単純な話ではありません。むしろ重要なのはその先。地域とつながる人を、地域で活躍する人へとつなげられるのか。
これを「関係人口型採用」という視点から考えてみたいと思います。
●「ふるさと住民」制度とは何か
報道によると、総務省は2027年3月から「ふるさと住民」制度を開始する方針です。居住地以外の地域に継続的に関わる人を、自治体が登録する仕組みです。
総務省が全国1,788自治体を対象に実施した調査では、1,327自治体、約74%が制度への参加に前向きな意向を示したとされています。
制度では、要件を設けない「ベーシック登録」と、地域で年3回以上のボランティア活動などを行う人を対象とする「プレミアム登録」が設けられる予定です。プレミアム登録者には、自治体の判断で地域訪問時の宿泊費や交通費などを補助する仕組みも想定されています。
目的は、地域との継続的な関わりを促し、地域活動の担い手を増やすこと。そして、二地域居住など多様な地域との関わり方を広げることです。
ここで、地域に関わる人の層を整理しておきたいと思います。大きく三つに分けられます。その地域に住む「定住人口」、観光や出張など一時的に訪れる「交流人口」、そして移住はしないが継続的・反復的に関わる「関係人口」です。
今回の「ふるさと住民」制度には、観光やイベントで訪れるだけの「交流人口」だった人に、もっと深く継続的に地域と関わってもらい「関係人口」へと育てていく意図があると感じています。
そして関係人口が増えることで、将来的な定住・移住や地域の担い手への接続が生まれやすくなる。そうした段階的な関係の深化を、この制度は後押ししようとしているのではないでしょうか。
旅行で何度も訪れている、その地域が好きで応援している、イベントやボランティアに参加している、将来は移住してみたいと思っている、といったさまざまな関わり方がありました。
今回の制度には、その関係性を公的な登録によって可視化し、継続的につながる基盤を整える意味があると考えています。
ただ、個人的に注目しているのは登録制度そのものではありません。登録した後に、どのような関係性をつくっていくのかという点です。
●「地域が好きな人」と「地域で働く人」は違う
例えば、ある地方都市に1万人の「ふるさと住民」が登録したとします。地域への関心が高まり、観光やイベントへの参加が増える。地域にとっては喜ばしいことです。
でも、それだけで地元企業の人手不足が解消するかというと、必ずしもそうではありません。
なぜなら、地域が好きなこととその地域で働きたいことは別だからです。観光で訪れることはできても、毎日通勤することはできない。地域を応援したくても、今の仕事を辞めるつもりはない。地域活動には参加したいけれど、地元企業の仕事内容までは知らない。こうした人も多いはずです。
つまり「関係人口が増えること」と「地域産業の担い手が増えること」の間には、まだ距離があるということです。
制度は、その距離を埋めるための入口を整える。問題は入口の先を誰が設計するのか。ここに制度の可能性と、同時に難しさがあると思っています。
●行政がつくるのは「地域との接点」。その先はどうするか
今回の制度は、マーケティングの考え方に置き換えると分かりやすいかもしれません。
例えば、企業が商品やサービスに関心を持ってくれる人を集めたとします。メールマガジンに登録してもらう、SNSをフォローしてもらう、イベントに参加してもらう。こうした活動によって、企業と顧客との接点が生まれます。しかし、登録者やフォロワーが増えたからといって、必ずしも商品が購入されるわけではありません。
重要なのは、その後の関係構築です。どんな情報を届けるのか。どんな体験を提供するのか。どうすれば理解や共感が深まるのか。そして、どのような形で継続的な関係につながるのか。
「ふるさと住民」制度にも、似た構造があると感じます。地域との関係は商品購入とは異なりますし、住民を単純に顧客として扱うべきではありません。ただ、一度つながった人との関係を、継続的に育てていくという考え方には共通点があります。
行政が登録制度という入口を整備する。では、その先に何を用意するのか。地域のイベント、ボランティア活動、地域課題の解決プロジェクト、地元企業との交流、副業や専門スキルを活かした仕事。こうした接点が用意されて初めて、登録が実際の地域活動へとつながっていくのではないでしょうか。
●地方企業の採用は「定住人口」だけを対象にしていていいのか
ここから採用の話です。
地方企業が求人を出す時、多くの場合、採用市場を通勤圏内で考えます。会社から車で30分以内、隣接する市町村、自宅から通勤できる人。当然、毎日出社する仕事であれば、そのような条件が必要です。
ただ、それをすべての仕事に当てはめる必要があるのでしょうか。
例えば、地方の製造業が抱えている課題を考えてみます。自社のホームページを改善したい、SNSで採用情報を発信したい、新しい販路を開拓したい、業務管理のデジタル化を進めたい、商品開発について相談したい。こうした仕事のすべてに、毎日会社へ通勤する人材が必要でしょうか。
もちろん、現場でなければできない仕事もあります。一方で、地域外に住んでいる人が、月に数回あるいはオンラインを組み合わせて関われる仕事もあるはずです。
だとすれば、採用市場は必ずしも「会社の近くに住んでいる人」だけではありません。「この地域や企業に関心があり、何らかの形で力を貸せる人」まで広げられる可能性があります。
人口が少ないことは簡単には変えられません。でも、誰を採用市場として見るのかは、企業側で変えることができます。
●「応募してから知る」ではなく「知ってから関わる」採用へ
一般的な採用活動では、求人を見る→応募→面接→採用→入社、という順番をたどります。つまり、企業と求職者の関係は、応募をきっかけに始まることが多いわけです。
でも、関係人口を起点に考えると、違う流れが見えてきます。
最初は地域に興味を持つ。何度か訪れる。地域の人と知り合う。地元企業の存在を知る。イベントやプロジェクトに参加する。その企業の仕事や考え方に触れる。そして、何らかの形で一緒に仕事をする。このような関係性の中から、継続的な協業や雇用につながる可能性があります。
こうした採用への接続を「関係人口型採用」として考えています。いきなり求人へ応募してもらうのではなく、地域や企業との関係性を通じて、双方が理解を深めていく。採用を「求人を出して応募を待つ」という一つの方法だけで捉えない考え方です。
●「副業・プロジェクト参画」から始めるという選択肢
例えば、都市部でWebマーケティングの仕事をしている人が、岐阜県内のある地域を気に入ったとします。年に何度か訪れ、地域のイベントにも参加している。でも、現在の仕事を辞めて移住するつもりはありません。
従来の採用で考えれば、この人は地元企業の採用ターゲットには入りにくいでしょう。しかし、地元企業が「採用サイトを改善したい」「SNSで地域の魅力を発信したい」「新しい顧客との接点をつくりたい」と考えていたらどうでしょうか。
月に数回オンラインで打ち合わせをする、必要な時に現地へ訪問する、まずは3か月のプロジェクトに参加してもらう。こうした関わり方であれば、実現できる可能性があります。その後も副業として関わり続けるかもしれません。別のプロジェクトへ広がるかもしれません。本人の希望や企業の状況によっては、将来的に雇用や移住につながることもあるでしょう。
大切なのは「どのような形なら関われるのか」を考える。これも、これからの地方採用に必要な視点だと思います。
●一緒に仕事をしてから採用を考える
関係人口型採用には、もう一つ可能性があります。それは、採用前に相互理解を深められることです。
通常の中途採用では、履歴書や職務経歴書、面接を通じて採用を判断します。限られた情報から、その人が自社で活躍できるかを見極めなければなりません。
一方、適切な契約と報酬のもとでプロジェクトを一緒に進めれば、どんな専門性を持っているのか、どのように仕事を進めるのか、社内の人とどう関わるのか、企業の考え方に共感できるのか、といったことを実際の協業を通じて知ることができます。
副業のまま長く関わる人がいてもいい。プロジェクト単位で協力する人がいてもいい。地域の活動だけに参加する人がいてもいい。その中で、企業と本人の希望が一致した時に、雇用という選択肢が生まれる。
「採用してから相性を確かめる」だけではなく「関係性を深めた先に採用がある」。こうした流れが、地方企業の採用に新しい選択肢を生むかもしれません。
●ただし、制度は「無料の人材紹介サービス」ではない
ここで注意したいことがあります。「ふるさと住民」制度は、地域との関わりを促進するための制度です。登録者を地元企業へ紹介することや、民間企業の人材不足を直接解消することが、そのまま制度の目的になるわけではありません。
また、地域でのボランティア活動と、企業の事業に従事する仕事は区別して考える必要があります。企業の仕事を担ってもらうのであれば、業務内容に応じた適切な契約や報酬が必要です。登録情報を企業の採用活動に活用する場合にも、本人の同意や個人情報の適切な取り扱いが欠かせません。
さらに、自治体や民間事業者が企業と働き手を仲介する仕組みを設ける場合には、職業紹介に関する法的な整理が必要になることもあります。
つまり、「ふるさと住民が増えたから、そこから自由に採用できる」という話ではありません。制度がつくる地域との接点と、企業の採用活動をどう適切につなぐか。その間に、もう一つの設計が必要なのです。
●関係人口型採用には、企業側の「仕事の設計」が必要になる
そして、ここが最も重要だと思っています。
仮に地域に関心を持つ人が1万人いたとしても、地元企業が「週5日勤務」「毎日出社」「フルタイム正社員」という働き方しか用意していなければ、関われる人は限られます。
では、企業側が仕事を見直したらどうでしょうか。週5日必要な仕事と、月数日でも進められる仕事を分ける。現場でしかできない仕事と、オンラインでできる仕事を分ける。社員が担当する仕事と、専門人材へ委託できる仕事を分ける。継続的に任せたい仕事と、期間限定のプロジェクトを分ける。こうした仕事の分解によって、地域外の人材が関われる余地が生まれます。
人に合わせて仕事を無条件に変えるのではなく、企業が必要としている仕事と、人が提供できる働き方の接点を設計すること。
以前の記事「『採用できない仕事』を、そのまま募集していませんか?」や「この地方では採れないは、本当か」でも触れてきた、「人がいない」のではなく「今の仕事の設計では、つながれていないのかもしれない」という問題提起にもつながります。
参考:https://www.katawara.co.jp/blog/message0049
参考:https://www.katawara.co.jp/blog/message0050
●自治体が「登録者数」だけを追っても地域は変わらない
制度が始まれば、登録者が何人になったか、プレミアム登録者が何人になったか、といった数字が注目されるでしょう。もちろん、登録者数は重要ですが、登録者が増えたことと、地域課題の解決が進んだことは同じではありません。
地域活動に参加した人は何人いるのか。継続的に参加している人はどのくらいいるのか。どのような地域課題の解決につながったのか。地元企業と新たな協業が生まれたのか。こうした指標も必要になると思います。
採用でも同じことが言えます。応募数が増えた、面接数が増えた、採用数が増えた、それだけで採用が成功したとは限りません。入社後に活躍できているのか、定着しているのか、企業と本人の双方にとってよい関係が生まれているのか。そこまで考える必要があります。
登録者数は、関係性をつくるための入口。その先で何が生まれたのかを見なければ、制度の本当の価値は測れないと思います。
●行政と企業では、担うべき役割が違う
今回の制度には、自治体の事務負担や財政負担が増えるという懸念もあります。登録者の管理、活動実績の確認、補助制度の運用、地域活動との調整。制度を運営するだけでも、相応の負担が生じるでしょう。
そこへさらに、地元企業の人材ニーズを把握し、仕事を切り出し、人材とのマッチングまで行うとなれば、自治体だけで担うのは簡単ではありません。だからこそ、行政と企業の役割を分けて考える必要があります。
行政は、地域との接点をつくり、継続的な関わりを支える。地域の企業や支援機関は、どんな仕事やプロジェクトなら外部人材と協働できるのかを考える。そして企業自身が、自社にはどんな課題があるのか、どんな人の力が必要なのか、どのような関わり方を用意できるのか、その人にどんな価値を提供できるのかを言語化する。
行政が人を集め、企業が待っていれば採用できるという仕組みではない。企業自身にも、地域外の人材とつながるための準備が必要です。
●「関係人口」は、地方企業の採用市場を変えるかもしれない
これまで地方企業の採用市場は、主に地理的な制約の中で考えられてきました。会社の近くに住んでいる人、通勤できる人、移住する意思がある人。もちろん、これからもそうした人材は重要です。
ただ、働き方や企業との関わり方が多様になれば、「住んでいないけれど、地域に関心がある」「移住はしないけれど、地域企業の仕事に関わりたい」「本業を続けながら、専門性を活かして地域に貢献したい」という人も、地域産業を支える存在になり得ます。
その人たちは、必ずしも従来の意味での「求職者」ではありません。求人サイトで仕事を探しているわけでもない。転職活動をしているわけでもない。でも、地域との関わりをきっかけに、仕事の機会が生まれることはある。
求人を探している人だけが、企業とつながる可能性のある人ではない。そう考えると、採用市場の見え方も変わってくるのではないでしょうか。
●最後に
「この地域には、もう採用できる人がいない」
地方企業がそう感じる背景には、人口減少という現実があります。その現実を否定することはできません。ただ、これからの採用を考える時、もう一つの問いがあってもいいと思います。
「地域に住んでいる人だけを、採用市場として見ていないだろうか。」
そして、「正社員として採用する以外に、その人と関わる方法はないのだろうか。」という問いです。
今回の「ふるさと住民」制度は、交流人口から関係人口へ、そして地域の担い手へという段階的なつながりを後押しする可能性があります。でも、その入口ができただけで、地域の人手不足が解消するわけではありません。
地域を知る→地域とつながる→地域の活動に参加する→地元企業を知る→一緒にプロジェクトへ取り組む→副業や継続的な協業へ広がる→そして双方の希望が重なれば、雇用や移住という選択肢も生まれる。
こうした多様な関係性を、どのように設計していくのか。そこに、これからの地方採用を考えるヒントがあると思います。
人口が減ることは、地方企業だけでは変えられない。でも、誰を採用市場として見るのか。どんな関わり方を用意するのか。その人と、どんな価値を生み出せるのか。それは企業自身が考え、変えることができます。
行政が「地域と人をつなぐ入口」を整えるのであれば、企業はその先の「地域と仕事をつなぐ仕組み」を考える。
「人がいない」から、「まだつながっていない人がいる」へ。
「ふるさと住民」制度を、そんな視点で捉えてみると採用にも変化を促せるかもしれません。
●Katawaraが考えるこれからの地方採用
株式会社Katawaraでは、採用を単に求人広告を掲載して応募を集める活動とは考えていません。誰とつながりたいのか。なぜ、その人に自社を選んでもらえるのか。どんな仕事や働き方を用意できるのか。そして、その人が関わることで、企業と本人の双方にどんな価値が生まれるのか。そこから採用を設計することが重要だと考えています。
関係人口を起点とした採用も、特別な採用手法というより、こうした採用設計の延長線上にあるものです。採用を「求人を出して待つこと」から、「人とつながる仕組みをつくること」へ。地域と企業の未来を考えるうえで、今回の制度が一つのきっかけになることを期待しています。
参考資料
総務省「ふるさと住民登録制度」に関する発表・制度資料
「『ふるさと住民』27年3月開始 自治体の74%が参加意向」(2026年10月10日報道)
※制度の開始時期、登録要件、補助内容などは、今後の正式な制度運用により変更される可能性があります。民間企業とのマッチングや採用への接続は、本記事で提案する構想であり、制度に組み込まれた仕組みではありません。
