「この地方では採れない」は、本当でしょうか?
2026年9月8日

採用市場を「人数」ではなく「誰か」で考える
●「こんな地方で、本当に採用できますか?」
採用の相談を受けていると、時々こう聞かれます。「こんな地方で、本当に人は採れるんでしょうか」「そもそも若い人がいないですよね」「人口が少ないから、募集しても難しいですよね」。
その感覚は、よく分かります。実際、人口減少が進んでいますし、特に地方では働き手そのものが減っています。だから、採用が難しくなっていること自体を否定するつもりはありません。ただ、この質問を受けた時、私は少し違う角度から考えるようにしています。
例えば、今回採用したい人数が1人だったとします。その場合、本当に必要なのは「たくさんの求職者」なのでしょうか。極端な言い方をすれば、たった1人に選ばれれば、採用は成立します。人口が100万人いる地域でも、誰にも選ばれなければ採用できません。反対に人口が少ない地域でも、その中の1人に「ここで働きたい」と思ってもらえれば採用できます。
採用市場を考える時、つい「何人いるか」という分母に目が向きます。しかし中小企業の採用では、分母の大きさを嘆く前に、「その中の誰に選ばれたいのか」を考えることの方が重要なのではないかと思っています。
●採れないと「間口を広げよう」とする
応募が来ない。すると、よく出てくるのが「間口を広げる」という考え方です。20代が採れないなら40代まで広げよう。経験者がいないなら未経験者も対象にしよう。正社員が集まらないならパートも考えよう。資格保有者がいないなら無資格でも応募可能にしよう。
もちろん、不要な条件を外すこと自体は大切です。しかし「条件を緩和すること」と「ターゲットを見直すこと」は、似ているようで違うと思っています。
間口を広げるという発想は、対象者100人では足りないから500人にしよう、という「量」の考え方です。一方、ターゲットを見直すというのは、「そもそも、この仕事を選ぶ可能性が高いのは誰なのか」を考え直すことです。500人に応募資格がある求人と、10人しか対象にならないけれど、その10人にとって非常に魅力的な求人。どちらが採用できる求人なのかは、単純に人数だけでは決まりません。
●「誰でも応募できます」は「誰のための求人なのか」が見えにくい
間口を広げ続けると、求人にはこんな言葉が増えていきます。未経験歓迎。年齢不問。学歴不問。経験不問。主婦・主夫歓迎。フリーター歓迎。シニア歓迎。もちろん、応募の障壁を下げる意味はあります。ただ、全部を並べていくと、別の問題も起こります。「結局、この会社は誰に来てほしいのだろう」が分からなくなることです。
求人を書く側としては「できるだけ多くの人に応募してほしい」と思っている。しかし求職者は「自分に応募資格があるか」だけを見ているわけではありません。「これは、自分に合う仕事なのか」を見ています。「誰でも応募できる求人」と「自分に合っていると感じる求人」は、同じではないのです。
●ターゲットは「20代」「主婦」「シニア」ではない
「ターゲットを決めましょう」と言うと、「20代です」「子育て中の主婦です」「50代までですね」という答えが返ってくることがあります。もちろん、属性を整理することも必要です。ただ、それだけではターゲットとしてはまだ粗いと思っています。
例えば「40代の女性」という条件だけでは、その人が何を理由に仕事を選ぶのかは分かりません。同じ40代でも、子育てが一段落して、もう一度しっかり働きたい人。家庭を優先しながら、平日の昼間だけ働きたい人。以前の仕事の経験を活かしたい人。まったく違う仕事に挑戦してみたい人。将来的には正社員として働きたい人。仕事に求めているものは、それぞれ違います。
年齢や性別は「属性」です。採用で本当に知りたいのは、その先にある「どんな状況にいて、何を求めて仕事を探している人なのか」ではないでしょうか。
●人口10万人ではなく「その中にいる一人」を見る
例えば人口10万人の地域で採用するとします。10万人という数字だけを見ても、採用戦略はほとんど決まりません。重要なのは、その中に「地元を離れずに働きたい人」がいるのか。「子育てが一段落して仕事に戻りたい人」がいるのか。「都市部で働いていたけれど、地元へ戻りたい人」がいるのか。「定年後も経験を活かしたい人」がいるのか。「今の会社ではできない仕事に挑戦したい人」がいるのか、ということです。
そして、その人に対して「あなたが探していた働き方は、ここにあります」と伝えられるか。ここまで考えると、採用市場の見え方は少し変わります。「この地域には何人いるか」ではなく、「この地域にいる、どんな人とつながりたいのか」という問いになります。
●「一人に刺さればいい」は、誰でもいいという意味ではない
「一人採用するなら、一人に刺さればいい」というのは、人口や市場規模を無視していい、という意味ではありません。資格、経験、勤務時間、通勤可能範囲などの条件を掛け合わせていけば、対象者がほとんど存在しない求人もあります。市場を見ることは必要です。
ただし、「人口が少ないから採れない」を結論にしない、ということです。人口は自社では変えられません。地域の若者の数も変えられません。競合企業の存在もコントロールできません。しかし、誰をターゲットにするのか、その人に何を伝えるのか、どんな接点をつくるのか、何を「ここで働く理由」として提示するのか、これは企業側で変えることができます。採用では、変えられない分母を嘆くより、変えられる設計に目を向ける方が建設的だと思っています。
●「欲しい人」だけでターゲットを決めない
企業が考える採用ターゲットは、どうしても「欲しい人」から始まります。若い人が欲しい。経験者が欲しい。長く働いてくれる人が欲しい。コミュニケーション能力が高い人が欲しい。もちろん企業ですから、希望があるのは当然です。ただ、採用には相手がいます。企業が「欲しい」と思っている人が、自社を「選びたい」と思っているとは限りません。
そこで「誰が欲しいか」だけではなく、「誰ならこの会社を選ぶ理由があるか」という問いも必要だと思っています。例えば、大手企業と同じ条件を求める20代経験者を採ろうとしている地方中小企業があったとします。その人にとって、大手ではなく自社を選ぶ理由は何でしょうか。もし答えがなければ、求人媒体を変えても状況は大きく変わらないかもしれません。
逆に、大企業では仕事の一部分しか担当できなかったけれど、もっと仕事全体に関わりたい人。都会で働いていたけれど、地元に戻って家族の近くで暮らしたい人。役職や年収より、自分の経験が直接会社に影響する環境を求めている人。そういう人にとっては、中小企業であることや地方にあることが、必ずしも弱みではありません。企業の弱みと強みは、誰から見るかによって変わります。だからこそ、ターゲットを考える必要があります。
●採用ターゲットは「固定するもの」ではなく「更新するもの」
一度採用ターゲットを決めると、そのまま何年も使い続けている会社があります。しかし会社も変わります。仕事も変わります。働く人の価値観も変わります。採用市場も変わります。5年前には20代の経験者を採用できていた、だから今年も同じ人を採る。以前はフルタイム勤務が当たり前だった、だから今回もフルタイムで募集する。これでは、過去の採用市場に向けて求人を出していることになります。
採用ターゲットは、求人票を作る時に一度決めて終わるものではありません。今の仕事、今の会社、今の採用市場を見ながら、更新し続けるものです。そして私は、応募が来なくなった時こそ、その更新のタイミングだと思っています。
●ターゲットを変えるなら会社側も変わる必要がある
前回の記事「『採用できない仕事』を、そのまま募集していませんか?」では、人材要件を考える前に仕事要件を考え、「今ある仕事に合う人を探す」だけではなく、場合によっては仕事そのものを再設計する必要があると書きました。
https://www.katawara.co.jp/blog/message0049
ターゲットを見直す時にも、同じ原則があります。
「子育て中の人もターゲットにしよう」と決めたのに、9時〜18時固定、残業あり、急な休みには対応できない。「シニアにも来てもらおう」と決めたのに、若手と同じ身体負荷を前提としている。「未経験者を採ろう」と決めたのに、教育の仕組みは経験者採用時代のまま。これでは、求人票上のターゲットを変えただけです。
本当にターゲットを変えるのであれば、働く時間・任せる仕事・教育方法・評価の仕方、場合によっては雇用形態まで、会社側もその人が活躍できる状態へ変わる必要があります。ここで初めて、「間口を広げる」と「採用を再設計する」の違いが見えてくると思います。
●採用は「大勢に選ばれる競争」ではない
採用というと、たくさん応募を集めた会社が勝ちというイメージがあります。もちろん大量採用であれば、一定の母集団は必要です。しかし、多くの中小企業が本当に必要としているのは、何百人もの応募者でしょうか。1人、2人、3人。それくらいの採用であることも少なくありません。
そうであれば、大企業と同じように「たくさんの人に知られること」を目標にしなくてもいい。100人から「まあ悪くない会社だな」と思われるより、一人から「ここは自分に合っているかもしれない」と思われる。その方が重要な採用もあります。
市場を「人数」で見るだけではなく、その中にいる具体的な誰かを見る。そして、その人が会社を選ぶ理由をつくる。これが、特に地方の中小企業にとって重要な採用戦略だと思っています。
●「この地方では採れない」の前に
人口が減っている。若者が少ない。大手企業の方が給与が高い。都市部へ人が流出している。どれも事実です。でも、その事実だけを見て「だから、うちでは採用できない」と結論づけてしまうのは、少し早いと思っています。
一度、問いを変えてみてください。「この地域には何人の求職者がいるのか」ではなく、「この地域にいる誰なら、うちで働くことに意味を感じるだろうか」。その人は今、どんな生活をしているのか。何に困っているのか。仕事に何を求めているのか。今の会社では何が満たされていないのか。自社だから提供できるものは何なのか。そこまで考えると、求人票に書く言葉も、使う採用チャネルも、提示する働き方も変わってきます。
採用ターゲットとは、「応募してもいい人の範囲」を決めることではありません。「誰に選ばれる会社になるのか」を決めること。そう考えています。
●最後に
採用できない時に間口を広げることは簡単です。年齢条件を広げる。経験条件を緩和する。「未経験歓迎」を追加する。しかし、それだけで採用が変わるとは限りません。
必要なのは、「もっと多くの人に応募してもらうにはどうするか」から、「誰に選ばれたいのか」へ問いを変えることです。
地方だから。人口が少ないから。若い人がいないから。そうした採用市場の現実を無視する必要はありません。でも、1人を採用したいのであれば、最終的に必要なのは1人とのマッチングです。だから「分母が小さいから採れない」と考える前に、その分母の中の「誰か一人」に選ばれる採用になっているかを考えたいところです。
そして、その人に本当に来てもらいたいのであれば、求人の言葉を変えるだけではなく、必要に応じて会社や仕事の側も変えていく。採用ターゲットは、企業が一方的に「欲しい人」を決めるためのものではありません。自社と働く人との、接点を見つけるためのものです。
「誰でもいいから応募してほしい」から、「あなたに来てほしい」へ。人口減少が進む時代だからこそ、そんな採用設計が必要なのではないでしょうか。
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株式会社Katawaraは、「採用で、経営を変える」をテーマに採用支援を行っています。
「応募が来ないから条件を緩和する」のではなく、誰に来てほしいのか、その人にとって自社を選ぶ理由は何なのか、そしてその人が活躍できる仕事になっているのか。
求人を出す前の採用ターゲットの言語化・再設計から、経営者の皆さまと一緒に考えることも、私たちの支援の一つです。
