主語の範囲を広げられる人
2026年8月23日

前回、「に」ではなく「が」で考えるという話を書きました。
「お客様に売る」ではなく「お客様が買う」。
「部下にやらせる」ではなく「部下が動く」。
これは、物事を「どこから見るか」という視点の話でした。
参照: https://www.katawara.co.jp/blog/message0044
今回は、その続きとして「視野」について考えてみたいと思います。
視点が「どこから見るか」だとすれば、視野は「どこまで見るか」。そして、その人がどこまで見ているのかは、普段使っている言葉の「主語」に表れるように思います。
視野とは、知識の「量」ではなく「範囲」
「視野が広い人」と聞くと、知識や経験が豊富な人を思い浮かべるかもしれません。もちろん、知識や経験は多い方がいい。でも、それだけで視野が広くなるわけではありません。
どれだけ多くのことを知っていても、考えている範囲が「自分の仕事」だけなら見えている世界はそれほど広くありません。
逆に、経験がそれほど多くなくても「自分だけではなく、相手にとってはどうだろう」「自分たちのチームだけではなく、会社全体ではどうだろう」「今だけではなく、半年後はどうだろう」と考えられる人がいます。
視野とは、どれだけ知っているかではなく、どこまでを自分の思考の範囲に入れられるかなのだと思います。
言い換えれば「主語の範囲」の話
私たちは普段、無意識に何かを主語にして物事を考えています。
「私が困る」「私たちのチームが困る」「うちの部署が困る」「会社が困る」「お客様が困る」「市場全体が困る」。
同じ出来事でも、主語をどこに置くかによって、見えてくる景色も下す判断も変わります。
たとえば、自分の数字だけを主語にすれば目の前の受注を取ることが最優先になります。チームを主語にすれば、自分がこの案件を取ること」だけではなく、「誰に任せるのがチームにとって最も良いのか」という問いが生まれるかもしれません。
会社を主語にすれば、売上だけでなく利益や継続性まで考えるようになります。顧客を主語にすれば、そもそも「売ること」が本当に相手にとって正しいのかという問いさえ生まれます。
主語が変われば問いが変わる。問いが変われば判断も変わります。
主語は放っておいても広がらない
人はどうしても、自分に近いものを主語にして考えます。自分の数字、自分の評価、自分の仕事、自分のチーム。それ自体が悪いわけではありません。自分の役割に責任を持つためには、必要なことでもあります。
ただ、その主語だけで考え続けていると判断が部分最適になっていくことがあります。
たとえば営業で、お客様から「もう少し値下げできませんか」と言われたとします。
「自分」を主語にすれば、受注したいから値下げするという判断になるかもしれません。「お客様」を主語にすれば、本当に価格が課題なのかを考える。「会社」を主語にすれば、その価格で継続して価値を提供できるのかを考える。さらに範囲を広げれば、安易な値下げが自社の商品やサービスの価値をどう変えていくのか、というところまで考えることもできます。
同じ「値下げしてください」という一言でも、どこまでを主語に含めるかによって、答えは変わります。だから、主語は意識して広げる必要があります。
マネジメントは「主語の範囲」がよく見える
マネージャーの言葉を聞いていると、その人がどこまでを見ているのかがよくわかります。
「自分のチームさえ数字を達成すればいい」という人もいれば、「事業部全体として考えたら、こちらのチームに人を回した方がいい」と考える人もいます。
前者が間違っていて、後者が正しいという単純な話ではありません。自分のチームの数字に責任を持つことは、マネージャーとして当然です。ただ、役割が大きくなればなるほど考えなければならない主語は増えていきます。
自分、メンバー、チーム、他部署、事業部、会社、顧客。そして、今日の数字だけではなく、今月、今期、その先の組織まで考える必要が出てきます。
仕事を任される範囲が広がるということは、扱わなければならない主語が増えることなのかもしれません。
主語は大きければいいわけではない
ただここで、ひとつ気をつけたいことがあります。
「会社全体を考えています」「市場全体を考えるべきです」と、大きな主語を使えば視野が広いというわけでもありません。
会社全体として正しい判断だったとしても、その判断によって目の前のメンバーが疲弊していることに気づいていなければ、それもまた何かを見落としています。市場について語れても、目の前のお客様が何に困っているのかを見ていなければ、良い営業とは言えません。
大きな主語だけを使うことも、ある意味では視野が狭い。
だから、本当の意味で視野が広い人とは、ただ主語を大きくできる人ではなく、必要に応じて主語の範囲を変えられる人なのだと思います。
自分からチームへ、チームから会社へ、会社から顧客へ、顧客から市場へ。そして必要なら、もう一度「目の前の一人」まで戻ってくる。
遠くを見ることと、近くを見ること。その両方ができることが、視野の広さなのではないでしょうか。
判断に迷ったら主語を一段動かしてみる
営業でも、マネジメントでも、判断に迷う瞬間があります。そんなとき、ひとつ使える問いがあります。
「いま、自分は誰を主語にして考えているだろう。」
「自分にとって」で考えているなら、「チームにとって」まで広げてみる。「チームにとって」で考えているなら、「会社にとって」まで広げてみる。「会社にとって」で考えているなら、「お客様にとって」まで広げてみる。
逆に、大きな話ばかりしているなら「目の前のこの人にとって」まで戻してみる。
主語を一段動かすだけで、それまで見えていなかったものが見えてくることがあります。
前回の「が」は、物事をどこから見るかという話でした。今回の「主語」は、そこからどこまで見るかという話です。
視野が広い人とは、いつも遠くを見ている人ではありません。必要なときに、自分が使っている主語の範囲を変えられる人なのだと思います。
あなたはいま、誰を主語にして考えていますか。
株式会社Katawaraは、「採用で、経営を変える」を掲げ、岐阜県を中心に採用戦略の構築から仕組み化・内製化支援まで、企業に伴走する採用コンサルティング会社です。単なるアドバイスにとどまらず、企業が自ら採用力を育て、自走できる体制づくりを支援しています。
