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その採用基準は、「未来の会社」に必要な人を選べていますか?
― 採用基準・ペルソナ・求人原稿を経営戦略とつなぐ採用設計の考え方

2026年10月5日

採用基準をつくる時、よく使われる方法があります。

「自社で活躍している社員の共通点を探す」という方法です。

成果を出している社員は、どんな考え方をしているのか。仕事でどんな行動を取っているのか。お客様とどう向き合っているのか。困った時にどう動くのか。

こうした行動特性を分析し、採用基準へ落とし込んでいく。いわゆるコンピテンシーの考え方です。

この考え方は採用基準をつくるうえで非常に有効だと思っています。「コミュニケーション能力が高い人」「主体性がある人」「素直な人」といった抽象的な人物像ではなく、実際に自社で活躍している人の行動から、「自社にとっての活躍」を具体化できるからです。

ただ、ここで一つ問いがあります。

今、活躍している人は、「これからの会社」でも同じように活躍する人なのでしょうか。


●採用基準が「過去の会社」を再生産してしまう

例えば、現在は社長が多くの意思決定をしている会社があるとします。社員は社長から指示を受け、それを正確に実行する。既存顧客との取引が中心で、大きな変化よりも安定した運営が求められている。

この会社で現在活躍している社員を分析すれば、「決められたことを正確に実行できる」「指示をきちんと理解できる」「既存のルールを守れる」といった行動特性が出てくるかもしれません。

では、この会社が5年後、現場への権限移譲を進めたい、新規事業を立ち上げたい、若手にも意思決定を任せたい、社長依存の経営から組織で動く会社へ変わりたい、と考えていたらどうでしょうか。

現在の活躍社員だけを正解として採用基準をつくり続ければ、これから会社が必要とする人とのズレが生まれる可能性があります。極端に言えば、採用によって「過去の会社」を再生産し続けてしまう。

採用基準をつくる時に「現在活躍している人」を見ることは大切です。しかし、それだけでは足りないのかもしれません。

必要なのは、もう一つの問いを持つことです。「今の活躍社員は、これからの会社でも同じように活躍するのか」という問いと、「これからの会社には、どんな人が必要なのか」という問いを、同時に持つことです。


●採用基準は「未来の会社」から逆算する

採用は「今、人が足りないから採用する」ところから始まりがちです。退職者が出た。注文が増えた。店舗を増やす。現場から「人が足りない」と言われた。だから求人を出す。

採用が必要になる直接的なきっかけはそれで構いませんが、採用する人は入社した瞬間だけ会社にいるわけではありません。3年、5年、場合によっては10年、一緒に働く可能性があります。

だとすれば「今の仕事ができる人」を採るだけで、本当にいいのでしょうか。

3年後、この会社はどんな会社になっていたいのか。5年後、どんな事業をしているのか。その時、組織はどうなっているのか。社員には、どんな役割を担ってほしいのか。

そこから逆算すれば、「今、必要な人」と「これから必要になる人」は、必ずしも同じではありません。つまり、自社の経営戦略・事業戦略もとつながっている必要があります。


●「今できること」だけで選ぶと、未来の可能性を見落とす

例えば営業職で経験者の採用募集するとします。現在必要なのは既存顧客へのルート営業。だから「法人営業経験3年以上」「既存顧客への提案経験」を採用条件にする。現在の仕事だけを見れば合理的です。

しかし会社が3年後、新規事業を伸ばしたいのであればどうでしょうか。その時に必要になるのは、新しい顧客を開拓する力、正解のない状況で考える力、社内を巻き込む力、顧客の課題から新しいサービスを考える力かもしれません。

すると、現在の職務経験だけで候補者を選ぶことが、未来の会社にとって最適とは限りません。だから採用では、「今、何ができるか」だけではなく、「これから何ができるようになりそうか」を見る必要があります。

これが採用における「ポテンシャル」を考える意味の一つだと思っています。


●ただし「未来の会社」だけを考えても足りない

ここまで会社側の未来について考えてきました。でも、採用にはもう一つ考えたい「未来」があります。それが、採用される人自身の未来です。

採用ターゲットやペルソナをつくる時、多くの場合は「現在」を整理します。例えば、28歳。岐阜県在住。現在は製造業勤務。年収400万円。転職経験1回。今の会社では成長実感がない。もう少し技術を身につけたいと思っている。

こうした情報から採用ペルソナをつくる。ただ、ここでペルソナ設計を終わらせない方がいいと考えています。もう一つ考えたいのは、その人が自社へ入社して3年後、5年後、どうなっているのか、です。

つまり、採用における「未来のペルソナ」として考えてみるということです。


●「未来のペルソナ」を描いてみる

例えば、現在のペルソナが「27歳。製造業は未経験。正社員経験は浅く、特別な資格もない。今の仕事に大きな不満はないが、このまま続けても専門性が身につかないことに不安を感じている」という人だったとします。

この人に向けた求人なら、「未経験歓迎」「資格不問」「研修制度あり」と書くことができます。でも、それだけでは「現在の不安」に答えているだけです。

その先まで考えてみます。入社3か月後、基本的な機械操作ができるようになる。半年後、一つの工程を一人で任される。2年後、複数工程を担当できるようになる。3年後、後輩へ仕事を教える立場になる。5年後、改善活動にも関わり、チームをまとめる役割を担っている。

ここまで描ければ、求人で伝えるメッセージも変わります。「未経験でも応募できます」だけではなく、「未経験で入社したあなたが、5年後にはどうなっているのか」を伝えられるようになります。


●マーケティングでは「商品」ではなく「その先の変化」を伝える

ここで少し、マーケティングの考え方に置き換えてみます。

マーケティングでは、商品やサービスの機能・特徴だけではなく、それによって顧客が得られるベネフィットを伝えることが重要だと考えます。例えば英会話スクールなら、「週2回」「1回60分」「オンライン対応」はサービスの特徴です。でも顧客が本当に欲しいものは、週2回のレッスンそのものではないでしょう。

半年後、海外旅行で自分の言葉で話せるようになる。外国人のお客様にも自信を持って接客できるようになる。海外の取引先との会議で、自分の意見を伝えられるようになる。顧客が買っているのは商品そのものだけではなく、「それによって、自分がどう変わるのか」という未来でもあります。

そして、ここにストーリーテリングの考え方も重なります。英語力が身につきますと説明されるだけでは、自分の未来まではなかなか想像できません。しかし、今は海外の取引先との会議でほとんど発言できない→少しずつ英語でやり取りできるようになる→半年後、自分から取引先へ提案できるようになる、という変化が描かれると、その商品やサービスを利用した後の自分を具体的に想像しやすくなります。

つまり、現在の自分→商品・サービスとの出会い→経験・変化→未来の自分、というストーリーです。私は、採用でも同じことが必要だと思っています。


●求人原稿は「仕事」を説明して終わりではない

多くの求人原稿には、給与、勤務時間、休日、福利厚生、仕事内容、研修制度といった情報が書かれています。それは、マーケティングに置き換えれば、いわば「商品のスペック」に近い情報です。

でも、求職者が知りたいのはそれだけでしょうか。「未経験歓迎」「資格取得支援あり」「研修制度充実」と書かれていたとしても、それは制度や条件の説明です。

もう一歩進めるなら、「その制度や仕事を通じて、自分はどう変わるのか」まで伝える。未経験で入社する→最初の3か月で基本業務を覚える→半年後には一つの工程を任される→2年後には複数工程を担当する→3年後には後輩へ仕事を教えている→5年後には改善活動にも参加し、チームをまとめる立場になっている。

ここまで描かれて初めて、未経験歓迎という一言が、「今は経験がない自分でも、ここならこうなれるかもしれない」という未来へ変わります。

求人原稿とは、現在の仕事を説明するだけのものではない。その仕事を選んだ先にある未来を、求職者自身に想像してもらうものでもある。そう考えています。


●「現在のペルソナ」だけでは、求人は半分しかできていない

採用ペルソナというと、「今、その人は誰なのか」を考えることが中心です。年齢、経験、現在の仕事、生活環境、転職理由、悩み、仕事選びで重視していること。

ただ、マーケティングで「商品を買った後の顧客」を考えるのであれば、採用でも「入社した後の求職者」を考えていいはずです。だから私は、採用ペルソナを二つの時間軸で考えます。

現在のペルソナ「今、この人はどんな人なのか」、そして未来のペルソナ「この会社で働くことで、この人はどうなっていくのか」です。

求人原稿は、現在のペルソナに向かって「あなたに合う仕事があります」と呼びかけるだけではない。未来のペルソナまで描き、「ここで働くと、こんな未来をつくれるかもしれません」と伝える。この二つがあって初めて、求職者は「現在の自分」と「この会社で働く未来」をつなげて考えられるようになります。


●「キャリアアップできます」だけでは、未来は見えない

ここで注意したいのは、抽象的な将来性を語るだけでは意味がないということです。求人でよく見る「成長できる環境です」「キャリアアップできます」「将来は管理職を目指せます」といった言葉。そられは間違いではありませんが、それだけでは求職者は自分の未来を想像できません。

何を経験するのか。何ができるようになるのか。どんな役割を任されるのか。実際にそうなった社員はいるのか。どのくらいの期間がかかるのか。管理職以外のキャリアはあるのか。

未来のペルソナにも「証拠」が必要です。実際の社員のキャリア、入社後の育成ステップ、任される仕事の変化、取得できる資格、身につく技術。こうした具体的な事実があって初めて、「自分もこうなれるかもしれない」という未来がリアルになります。


●会社の未来と、その人の未来は重なっているか

そして、ここが今回最も大切なところです。

企業側には「未来の会社」があります。求職者側には「未来の自分」があります。

例えば会社は「これから新しい事業に挑戦したい」と思っている。求職者は「決められた仕事だけではなく、新しいことにも挑戦できるようになりたい」と思っている。ここには接点があります。

会社は「これから若手へ権限を移していきたい」と思っている。求職者は「将来は自分で判断して仕事を進められるようになりたい」と思っている。ここにも接点があります。

反対に、会社は今後も安定した既存事業を丁寧に続けたい。求職者は、次々に新しい事業を立ち上げるような環境で働きたい。のであれば、現在の給与や仕事内容が合っていても、数年後にはズレが生じるかもしれません。

だから採用で見るべきなのは、現在の会社×現在の候補者だけではありません。未来の会社×未来の候補者も見る。その二つの未来が重なる場所に、より長期的なマッチングがあるのではないでしょうか。


●採用基準と求人原稿は、本来一本につながっている

ここまで考えると、採用活動の順番も変わります。

まず、3年後・5年後どんな会社になりたいのかを考える。そこから、その会社をつくるためにどんな人が必要なのかを考える。次に、その可能性を持っているのは今どんな人なのかを考える。そして、その人が自社へ入社するとどんな未来をつくれるのかを考える。最後に、その未来を求人原稿や採用サイトでどう伝えるのかを考える。

つまり、経営戦略→未来の会社→採用基準→採用ターゲット→現在のペルソナ→未来のペルソナ→求人原稿・採用メッセージ、という流れです。

求人原稿はこの一番最後にあるものだと思っています。だから採用がうまくいかない時に、いきなり求人原稿を書き直しても解決しないことがあります。その前にある「どんな会社をつくりたいのか」「誰とその会社をつくりたいのか」「その人に、どんな未来を提供できるのか」が整理されていないからです。


●「現在適合」だけではなく「未来適合」を見る

採用におけるマッチングというと、現在の能力と仕事内容が合う、給与希望と条件が合う、勤務時間が合う、価値観が合う、といった「現在の適合」を考えます。もちろん重要です。

ただ、採用後に活躍・定着してもらうことまで考えるなら、もう一つ「未来適合」という視点があってもいいと思います。会社が向かいたい未来。本人が向かいたい未来。その方向が重なっているか。

この視点を持つと、面接で聞くことも変わります。「今まで何をしてきましたか?」「どんな経験がありますか?」だけではなく、「これから、どんな仕事ができるようになりたいですか?」「3年後、どんな状態になっていたいですか?」「今後、どんな仕事には挑戦してみたいですか?」と聞いてみる。

そして企業側からも、「私たちは3年後、こんな会社になりたい」「だから、あなたには将来こんな役割を担ってほしい」と伝える。

面接が、過去を確認する場所から、未来をすり合わせる場所へ変わる。これも採用設計の一つだと思います。


●未来を描くことと「未来を約束すること」は違う

未来のペルソナを考える時に、一つ注意したいことがあります。企業が求職者の未来を勝手に決めてはいけない、ということです。

「5年後には管理職になれます」「この会社に入れば必ず成長できます」「将来は年収○○万円になります」。未来には不確実性があります。会社の状況も変わりますし、本人の希望も変わります。

だから求人で伝えるべきなのは、未来の保証ではなく、未来の可能性と、その根拠です。「実際に未経験で入社した社員が3年後に○○を担当しています」「入社後はこの順番で仕事を覚えます」「本人の希望や適性に応じて○○というキャリアも選べます」といった事実を示す。

未来を魅力的に演出するのではなく、その会社で働くことで生まれ得る未来を、できるだけ具体的に伝える。ストーリーテリングも、物語を「つくる」という意味ではありません。すでに会社の中に存在している事実や可能性を、求職者が自分の未来として理解できる形につなぐ。ここは採用において、とても重要だと思います。


●採用とは「今の穴」を埋めることだけではない

欠員が出た。だから、その人と同じ仕事ができる人を探す。これは最も分かりやすい採用です。でも、それだけを繰り返していると、組織はなかなか変わりません。同じポジション、同じ採用基準、同じ人物像、同じ仕事、同じ組織を再生産することになるからです。

採用は、会社に新しい人が入ってくる機会でもあります。だからこそ、「今の会社に合う人」を探すだけではなく、「未来の会社を一緒につくれる人」を考える。そして企業側だけではなく、「その人にとっても、この会社に入ることで望む未来へ近づけるのか」を考える。

採用をそのように捉えると、「人手不足だから求人を出す」という話から、かなり景色が変わってくると思います。


●最後に

採用では、どうしても「現在」を見ます。今、何ができるのか。どんな経験があるのか。何歳なのか。どこに住んでいるのか。どんな条件を希望しているのか。企業側も同じです。今、どの仕事が足りないのか。今、どんな能力が必要なのか。今、誰が活躍しているのか。

もちろん、どちらも大切です。でも採用とは、現在の会社と現在の人をつなぐだけのものではありません。その人が入社した後も、会社と人の時間は続きます。

だから、現在の会社→未来の会社と、現在の候補者→未来の候補者の両方を考える。そして、その二つの未来が重なるところを探す。採用基準をつくる時も、ペルソナをつくる時も、求人原稿を書く時も、面接をする時も、「今、どんな人が欲しいか」だけではなく、一度こう問いかけてみる。

「この人と、私たちはどんな未来をつくりたいのか。」

そして求職者に対しても、「この会社で働くことで、あなたはどんな未来をつくれるのか。」を伝える。

採用とは、「今の会社に合う人」を探すことだけではない。これからつくりたい会社と、その人がなりたい未来が重なる場所を探すこと。私は、これも採用を「経営」として考えるということなのだと思います。

あなたの会社の採用は、どんな未来から設計されていますか?


Katawaraが考える採用設計

株式会社Katawaraでは、求人原稿を作成する前に、「誰を採りたいのか」を言語化することを大切にしています。ただし、それは年齢・経験・資格など、現在の属性を決めることだけではありません。

会社がこれからどこへ向かうのか。そのためにどんな人が必要なのか。その人が入社することで、会社はどう変わるのか。そして、その人自身はどう変わっていけるのか。

「未来の会社」と「未来の人」の両方から、採用を設計する。そこから採用基準、採用ターゲット、ペルソナ、求人原稿、面接までを一本につなげていく。それが、採用を単なる欠員補充ではなく、未来の会社をつくるための経営活動へ変えていくことだと考えています。

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