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令和8年版 労働経済白書から考える、採用と人材育成の新しい問い

2026年10月3日

この記事で分かること

  • 働く人は増えているのに、なぜ企業は採れないのか

  • AIで「人が要らなくなる」は、少なくとも現時点では確認されていない

  • 採用コンサルタントの視点から見た、中小企業が今取り組むべきこと

  • 「採用難」ではなく「人材ポートフォリオのミスマッチ」


令和8年版 労働経済白書が公表

2026年9月29日、厚生労働省は「令和8年版 労働経済の分析(労働経済白書)」を閣議に報告し、公表しました。今回で77回目の公表となるこの白書のテーマは「AI等技術革新が進む中での労働市場の現状と課題」です。

(出典:厚生労働省「令和8年版 労働経済の分析」

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75700.html

概要PDF:

https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/001753069.pdf


採用支援の現場で経営者と話していると、AIに対する関心は二つに分かれます。「AIで業務が効率化できそうだ」という期待と、「AIが普及すれば採用しなくてよくなるのでは」という期待、あるいは「AIで自分たちの仕事がなくなってしまうのでは」という不安です。

この白書を通読して感じたのは、どちらの見方も現実の一面しか捉えていない、ということです。採用コンサルタントの立場からこの白書を読んで最も重要だと感じたキーワード。

それは「採用難」ではなく「人材ポートフォリオのミスマッチ」です。


1.「働く人がいない」以上に、「欲しい人が市場にいない」

2025年の労働力人口は7,004万人と過去最高。女性・高齢者を中心に労働参加が進み、労働力率も過去最高の63.8%です。一見すると「働き手は増えている」という状況です。白書も2025年について、完全失業率・有効求人倍率は概ね横ばいながら、女性・高齢者の労働参加が進み、労働力人口・就業者数・雇用者数が過去最高になったと整理しています。

ところが、人手不足感は依然として高い。ここから採用実務で重要なのは、「人口が減っているから採れない」だけでは説明不足だということです。実態に近い捉え方はこうです。

働く人自体は増えている。しかし企業が求める「職種・スキル・時間・勤務地・雇用条件」と、働く側が提供できる条件が噛み合っていない。

これはミスマッチの問題です。「どんな人が欲しいか」だけでなく、「その人は今、どこで、どんな働き方をしていて、こちらの仕事を選べる条件になっているか」まで設計しないと採れない時代になっています。


2.「採用難」ではなく「職種別採用難」で見るべき

今回の白書で最も重要だと感じたデータがあります。AI導入前期(2016〜2019年)とAI導入期(2022〜2025年)を比較した職種別有効求人倍率です。


【職種別 有効求人倍率の比較】

左:2016〜19年平均   右:2022〜25年平均 

全体                1.52倍          1.27倍 

管理・専門職    2.06倍          1.82倍 

事務職               0.46倍          0.44倍 

生産工程職        1.61倍          1.70倍 

現場職               2.00倍          1.94倍


事務職0.44倍 vs 現場職1.94倍。約4.4倍の差。

同じ「採用が難しい」という言葉でも、職種によって市場環境がまったく違います。

したがって、「応募が来ません→求人原稿を改善しましょう」ではなく、「そもそも、この職種は市場にどれだけ人がいるのか」から始める必要があります。特に製造・物流・介護・サービス業など、人手が必要な現場を抱える中小企業には直結する話です。

なお白書自身も、この職種別求人倍率はハローワーク統計であり、民間求人市場を含まない点に注意を促しています。「市場全体の倍率」としてそのまま扱うべき数字ではありませんが、職種間で採用難易度が大きく異なることは明確に示されています。


3. AIで「人が要らなくなる」は、少なくとも現時点では確認されていない

ここも重要なポイントです。白書はかなり慎重に、「AI導入期になっても労働需要全体が大きく鈍化している状況ではない」としています。先ほどのデータの通り、管理・専門職・生産工程職・現場職では依然として高い需要が続いています。

つまり現段階では「AI→人員削減→人手不足解消」という単純な構造にはなっていません。現実的な考え方をすれば、「AIで採用人数を減らす」より「AIを使って一人当たりの生産性を上げ、採用しなければならない人数そのものを減らす」という発想の方が実態に近い。

たとえば5人不足している企業に対して「5人をどう採るか」だけを考えるのではなく、業務分解 → AI・自動化・外注化でできる部分を整理 → それでも人が必要な業務 → 採用 という順番で考える。採用の仕事が「求人を出す」より上流に移っていくと感じます。


4. 衝撃的な2040年の数字:「440万人余剰 vs 54万人不足」

白書が紹介している経済産業省の2040年推計では、以下のような予測が示されています。相当の幅をもって見る必要がある数字ですが、方向性として重要です。

  • 事務職:約440万人の余剰が生じる可能性

  • 現場人材(建設・採掘・サービス従事者等):約54万人の不足

  • AI・ロボット等利活用人材:約340万人の不足

  • 理系の大卒・大学院卒:約120万人の不足

  • 文系の大卒・大学院卒:約80万人の余剰

これまで企業は「欲しい人を採用市場から探す」ことを中心に考えてきました。これからは「市場にいる人を、自社が必要とする人材へどう転換するか」という発想が必要になります。

つまり採用戦略は「人材調達戦略」から、「採用+配置+育成+リスキリング戦略」へ広がっていくと考えた方がよさそうです。


5. 中小企業にとって最大の問題は「育成できない」ことかもしれない

ここは採用支援する立場として、非常に重要な部分だと感じます。

日本企業の人的資本投資は、1995年を100とすると2021年には58.3まで低下しています。一方で経常利益は319.5、利益剰余金は346.7まで増えています。利益は出ているのに、人への投資は減り続けている。

さらにOFF-JT(職場外研修)の実施率には企業規模による大きな差があります。

  • 従業員1,000人以上:98.6%

  • 従業員30〜49人:65.0%

中小企業と大企業の間に30ポイント以上の差があります。

そしてリスキリングに取り組まない理由も示唆に富んでいます。「必要性を感じない・必要なスキルを整理できない」が企業規模を問わず約4割前後、「支援方法が分からない」が約4分の1、「労働者に時間を取らせる余裕がない」も規模によって約3〜5割あります。

つまり「教育費がない」だけが問題ではありません。むしろ構造はこうなっています。

何を教えればいいのか分からない → どう教えるか分からない → 教える時間もない


採用基準・育成プロセス・評価設計までを言語化。それが整っていない中小企業がほとんどだというのが、現場で感じる実態です。


「未経験歓迎」を、ただの求人コピーにしない

求人票ではよく「未経験歓迎」という言葉を使います。ただこれからは、この言葉の意味を変えていく必要があります。応募を増やすために「未経験歓迎」と書くのではなく、経験者が市場にいないのであれば、未経験者が戦力化するまでのプロセスを企業側が設計する。ここまでセットで考える必要があります。

そのためには、入社後に何を覚えるのか、誰が教えるのか、何か月で何ができればいいのか、どの段階で給与や役割が変わるのか、キャリアの先に何があるのかを言語化しておく必要があります。

白書ではAI時代に重要性が高まるスキルとして、論理的思考力・批判的思考力・問題解決能力・コミュニケーション能力など特定の業務にとどまらず幅広く応用可能な能力を「メタスキル」と呼んでいます。未経験者を採用して育てる際も、専門スキルと同時にこうした土台となる能力を意識して育成することが、これからの人材設計では重要になります。

白書自体も「AIは導入すること自体が目的ではなく、従業員がAIと協働できるよう人的資本を高める必要がある」としています。未経験者育成とAI活用は、実は同じ方向を向いた問いです。


採用において捉えておきたい「5つの変化」

今回の白書を整理すると、以下の5つの変化として捉えられます。

  • 人手不足は継続

労働参加が増えても人手不足感は高い→「母集団を増やす」だけでは限界

  • 職種間格差が拡大

事務職と現場・専門職で需給が大きく違う→「採用市場」を一括りにしない

  • 労働供給の伸びしろが縮小

女性・高齢者の参加が既にかなり進展→潜在層を採るには仕事側を変える

  • AIは単純な人員削減ではない

AI導入後も現場・専門職需要は高い→「AIか人か」ではなく役割再設計

  • 採用と育成が一体化

将来はスキルミスマッチが大きな問題→「完成品を採る」から「育てて採る」へ


採用できないなら、求人広告を変える。その前に考えたいこと

これらを踏まえると、人が採用できない状況に陥った時、いきなり求人媒体を検討するのではなく、以下の順番で考える必要があります。

①本当に採用が必要なのか → ②どの仕事に人が必要なのか → ③その職種の労働市場はどうなっているのか → ④条件・仕事を変えれば別の人材層に開放できないか → ⑤未経験者を採って育てられないか → ⑥AIや省力化で必要人数そのものを減らせないか

この順番で整理して初めて、「では、どんな求人を作るか」という話になります。これまでの採用が「人をどう集めるか」だったとすると、これからは「仕事をどう設計すれば、人を採れて、育てられて、活かせるのか」まで踏み込む必要があります。


「人を集める」から、「人が働ける会社をつくる」へ

人手不足だから採れない。人口が減っているから仕方がない。もちろんそれも採用難の背景にはあります。ただそれだけで終わってしまうと、企業側には打ち手がありません。

働く人がいないのではなく、今の仕事内容・働き方・求めるスキル・育成方法のままでは、つながれる人が少ない。そう考えれば、できることはまだあります。

仕事を分解する。働き方を変える。対象となる人を広げる。未経験者を育てる。AIやテクノロジーを使う。そして、それでも人にお願いしたい仕事について、その仕事の価値や魅力をきちんと言葉にする。

採用とは「人を集めること」だけではありません。どんな人と、どんな仕事で、どうつながり、その人がどう成長していくのかを設計すること。求人広告を出すことは、その結果として行う手段の一つです。


今回の労働経済白書を読んで、これからの採用では「採用難」という言葉で思考を止めず、人材ポートフォリオのミスマッチ構造を解きほぐすことがますます重要になると感じました。

参考情報・一次情報

※本記事中の数値データは白書本文より引用しています。将来推計については相当の幅をもってご参照ください。ハローワーク統計に基づく職種別求人倍率は民間求人市場を含まないため、市場全体の倍率としてそのまま扱うべき数字ではありません。


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株式会社Katawaraは、「採用で、経営を変える」をテーマに採用支援を行っています。「人が採れない」という相談に対して、求人媒体の提案だけでなく、仕事の設計・採用ターゲットの言語化・育成の仕組みづくりまで含めた採用戦略の構築を、経営者の皆さまと一緒に考えることも私たちの支援の一つです。お気軽にご相談ください。

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