「正社員だから」は理由にならない。同一労働同一賃金ガイドライン改正と採用への影響
2026年8月17日

●2026年10月、もう一つの変化
「106万円の壁」の撤廃と同じくして、2026年10月に施行されるもう一つの重要な法改正があります。それは同一労働同一賃金ガイドラインの見直しです。
正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間にある不合理な待遇差の解消を目指すもので、今回の改正では労働条件の明示事項の追加や判断基準の明確化が行われます。
https://www.mhlw.go.jp/web_magazine/column/20260803.html
採用コンサルタントとして、この改正が採用の現場にどんな影響を与えるのか。そして、どうプラスに活かせるかをお伝えしたいと思います。
●今回の改正で最低限押さえるべきポイント
今回の改正は大きく3本柱で構成されています。
一つ目は労働条件の明示事項の追加です。
2026年10月1日以降にパート・有期雇用労働者を雇い入れる際、または労働契約を更新する際に、「待遇の相違の内容や理由等について、会社に説明を求めることができる」旨を労働条件通知書等に明記することが義務付けられます。
つまり、採用時に渡す書類に「うちの会社との待遇の違いについて、あなたは説明を求める権利があります」と明示しなければならなくなります。
二つ目は待遇差の判断基準の明確化です。
「正社員だから支給」「パートだから不支給」という判断だけでは不合理な待遇差と判断されるリスクがあります。改正後は「正社員だから」という抽象的な理由のみによる待遇差が一層認められにくくなります。賞与・退職手当・家族手当・住宅手当・休暇など、具体的な待遇についての考え方が明確化されました。
三つ目は雇用管理改善措置の追加です。
パート・有期雇用労働者のキャリアアップや正社員転換の機会確保について、企業が取り組むべき措置が追加されています。
●「説明を求めることができる」が採用に与える影響
この改正で最も採用に直結するのは「待遇差の説明義務」の明文化です。
これまでも説明義務はありましたが、今回から「説明を求めることができる旨を書面で明示する」という義務が加わります。
つまり、求職者・入社したスタッフが「なぜ正社員と待遇が違うのですか」と聞いてくる場面が、今後増えることが予想されます。
採用の現場でこんな場面を想像してみてください。
面接で「正社員さんは家族手当がありますか?私にはありますか?」と聞かれた時に、「パートだから対象外です」とだけ答えられますか。
改正後は以下3つの観点から、具体的な理由を説明できる状態が求められます。
職務の内容(業務内容+責任の程度)
職務の内容・配置の変更の範囲(転勤・異動・昇進の有無)
その他の事情(その手当・賞与の支給目的・性質)
●「説明できない会社」は採用で不利になる
この改正を「コンプライアンス対応」として捉えている企業と、「採用設計の見直し機会」として捉えている企業では、これから差が開いていきます。
求職者は年々、賢くなっています。口コミサイト・SNS・AIを使って企業の情報を事前に調べ、面接でも率直に聞いてくるかもしれません。
「なぜ正社員と待遇が違うのか」「正社員になれる可能性はあるのか」「同じ仕事をしているのに賞与がないのはなぜか」。
これらの問いに答えられない企業は「この会社は曖昧だ」という印象を残し、辞退につながるリスクが増します。
逆に、待遇差の理由を明確に説明できる企業は、求職者から「この会社はきちんとしている」という信頼を得られます。
待遇の点検と説明体制の整備は、法令対応だけでなく人材確保にも役立ちます。仕事・評価・昇給・正社員転換の基準が見える会社は、パート・契約社員が将来を描きやすくなります。
「将来を描きやすい会社」は、採用でも定着でも強い。
●この改正をプラスに活かす3つの視点
採用の設計として、今回の改正をどう活かすかをお伝えします。
①待遇差の「見える化」を、採用の武器にする
「うちはパートでも賞与があります」「勤続年数に応じて時給が上がります」「正社員転換の実績があります」。
これらを明示できる会社は、同じ条件の他社と比べて圧倒的に選ばれやすくなります。
待遇差の見える化は、義務ではありますが、同時に「選ばれる理由」にもなります。
求人票・面接・労働条件通知書の中で、自社の待遇を正直かつ丁寧に伝えることが、採用ブランディングの一つになります。
②「正社員転換」の道筋を、採用時に示す
今回の改正では、パート・有期雇用労働者のキャリアアップや正社員転換の機会確保も求められています。
採用の場面でこれを活かすとすれば、「うちの会社でどんなキャリアを積めるか」を入社前に示すことです。
「パートから始めて、こういう実績を積めば正社員になれます」という道筋が見えている会社は、意欲のある求職者に選ばれやすい。
採用の入口で「将来の選択肢」を渡すことが、今後の採用設計の重要な要素になります。
③「説明できる採用担当者」を育てる
待遇差の説明義務が明文化されることで、採用担当者に求められるスキルが変わります。
「うちの条件はこうです」と伝えるだけでなく、「なぜそうなっているか」を説明できる知識が必要になります。
これは採用担当者だけの問題ではありません。面接に入る現場のリーダーや経営者も、同じ説明ができる状態にしておく必要があります。
採用は「説明できる組織」が強い時代になっていきます。
●「正社員だから」が通じない時代の採用設計
今回の改正が示しているのは「雇用形態による区別」から「職務内容・役割による区別」への転換です。そして、採用においても同じ変化が求められています。
「正社員かパートか」ではなく、「どんな役割を担うか」「その役割に対してどんな処遇を用意しているか」という設計が、これからの採用の軸になります。
この問いと向き合っている企業は、改正を機に採用の質が上がっていきます。
あなたの会社の採用は、「なぜその待遇なのか」を説明できますか?
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株式会社Katawaraは、「採用で、経営を変える」をテーマに採用支援を行っています。
同一労働同一賃金の改正を踏まえた求人票の見直し・面接設計・労働条件の整理など、法改正を採用設計のプラスに変えることも、私たちの支援の一つです。お気軽にご相談ください。
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●追記:自社の「説明力」と「採用設計」を確かめる 5つのチェックリスト
記事を読んで「うちの会社は?」と感じた方は、以下の5つの問いに答えてみてください。
チェック1|雇用契約・労働条件明示
□ 2026年10月以降の新規雇入れ・契約更新時に渡す労働条件通知書に、「待遇差についての説明を求めることができる旨」を記載する準備ができていますか?
▷ 2026年10月1日以降、パート・有期雇用労働者に対してこの旨を書面で明示することが義務化されます。書類の文言を確認・更新しておきましょう。
チェック2|手当・賞与の支給目的
□ 正社員だけに支給している「賞与」「各種手当(家族・住宅・役職など)」について、それぞれ「なぜ支給しているのか(目的)」を言葉にできていますか?
▷「正社員だから支給する」は理由になりません。「長期就業へのインセンティブ」「転勤リスクへの補償」など、支給目的を明確にしておく必要があります。目的が明確であれば、パートへの不支給を合理的に説明できます。
チェック3|実態と待遇の整合性
□ 現場でシフト作成・新人指導・リーダー業務など、正社員と同じような責任や管理業務を担っているパート・有期社員はいませんか?
▷ 業務内容や責任の範囲が正社員と同等である場合、大幅な賃金差や賞与ゼロは「不合理な待遇差」と判断されるリスクが高まります。実態と処遇のズレを点検しておきましょう。
チェック4|面接・採用担当者の説明力
□ 面接官や現場リーダーが、求職者から「なぜパートには賞与や手当がないのですか?」と聞かれた際に、会社として統一された回答ができますか?
▷ 担当者によって回答がブレたり「ルールだから」と濁してしまうと、求職者の不信感や辞退につながります。説明の内容と言い方を、採用に関わる全員で共有しておきましょう。
チェック5|キャリアパス・正社員転換
□ パート・有期社員が「どうすれば時給が上がるか」「どうすれば正社員になれるか」について、基準や実績が明確になっていますか?
▷ 今回の改正では、正社員転換の機会確保も求められています。入口で「将来の選択肢」を示せる会社は、採用でも定着でも選ばれやすくなります
※このチェックリストは採用設計の自己点検を目的としたものです。法的な詳細や個別の実務対応については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご確認ください。
