「賃金を上げれば解決する」と思っていませんか?
2026年7月5日

「結局、給料を上げないと人は来ないですよね。」
「うちは大手みたいに賃金を上げられないから、採用が難しいんです。」
採用支援をしていると、こんな言葉を耳にすることがあります。
気持ちはよくわかります。2025年の春闘では歴史的な賃上げが実現し、大手企業を中心に給与水準が上がり続けています。
求人票には「月給○万円以上」という数字が並び、求職者も給与で比較しやすい環境になっています。
しかし、採用の問題を「賃金の問題」として捉えることに、一つの危うさを感じています。
●賃金を上げても、満足度は上がらない
株式会社リクルートマネジメントソリューションズが2026年6月に発表した「労働時間と休日に関する意識調査」に、興味深いデータがあります。
(https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/4341245321/)
会社・職場の満足度に最も影響する要素を尋ねたところ「報酬・給与」が64.7%で1位でした。
では、実際の満足度はどうか。「報酬・給与」に満足していると回答した人は、39.5%にとどまりました。
重要度は最も高いのに、満足度は最も乖離があるという結果。
この構造は何を示しているのでしょうか。
調査のコメントにはこうあります。「報酬・給与は多いに越したことがないという側面があるため、報酬・給与が上がっても、それに伴って『満足』だと感じるハードルも上がることもあり、やむを得ない面もある。」
つまり、給与を上げても「満足」のゴールは遠ざかり続けます。賃金は必要条件ですが、十分条件にはならないということです。
●「休日が取れる」は、もはや最低基準
同調査では、勤務先を選ぶ際の労働条件の重要度も明らかになっています。
「年次有給休暇を取得しやすい」が81.9%、「週休2日制である」が77.8%と、いずれも8割前後に達しています。
一見すると、休日を重視しているという読み方ができます。しかし注目すべきは「満足度」の方。「休日」への満足度は60.3%と比較的高く、実態としてもおおむね充足されています。
つまり、週休2日・有給取得可能という条件は、求職者にとって「魅力的な職場の条件」ではなく「あって当然の最低基準」として認識されています。
これをアピールしても差別化にはならない。むしろ担保できていない時点で、選択肢から外されるリスクがあります。
●「早く帰りたい」は、職場への不満のサイン
もう一つ、見落としてはいけないデータがあります。
「今より短い時間で働きたい」と回答した人は45.3%。約半数に近い人が、労働時間を短くしたいと思っています。
その理由の1位は「心身の健康を守りたいから」(56.3%)、2位が「趣味、遊び、余暇の時間を持ちたいから」(47.6%)です。
ここまでは予測の範囲内かもしれません。
しかし重要なのは、この「短くしたい」層の満足度の実態です。
「今より短い時間で働きたい」人は、報酬・給与・人間関係・仕事内容など、すべての満足度項目において、「今のままがいい」「長くしたい」層を大きく下回っています。
つまり、「早く帰りたい」という声は、単に時間の問題ではありません。今の職場環境・待遇・仕事内容の割に、拘束される時間が見合っていないというエンゲージメント低下のサインである可能性が高い。
労働時間の希望を「そのまま受け止めるのではなく、その要因となる現状を分析し、状況にあわせた改善をしていくことが重要」と調査はまとめています。
●満足度に影響するのは、給与だけではない
同調査で満足度に影響する要素の2位・3位は何でしょうか。
2位「職場の人間関係」(54.9%)、3位「仕事内容」(44.7%)です。
そして、これらの満足度の実態を見ると、職場の人間関係は5割程度、仕事内容も5割程度にとどまっており、重視している条件が十分に満たされていない状況が見えてきます。
ここで注目したいのは、「職場の人間関係」という項目です。
調査のコメントには、「職場の人間関係については、労働契約書に記載される労働条件にはあたらない。しかし、実態としては重要な労働条件の一つにもなっているとも捉えることができる」とあります。
求職者が求めているのは、数字に書き表せるものだけではありません。入ってみないとわからないもの、しかし入ってから最も強く感じるもの。それが人間関係であり、職場の空気感です。
●採用で「賃金以外」を問われる時代
ここまでのデータを採用の視点で整理すると、こう見えてきます。
求職者が勤務先を選ぶとき、まず「最低基準」として休日・有給を確認します。これが担保されていなければ、そもそも検討対象になりません。
次に「重要条件」として給与を比較します。しかし給与は上げ続けても満足のゴールが遠ざかる構造があり、賃金だけで選ばれ続けることはできません。
そして「決め手」になるのは、数字に書き表せない部分です。どんな人たちと働くのか。仕事に意味を感じられるか。自分の時間をここに使う価値があるか。
この「決め手」の部分は、求人票の給与欄では伝えられません。面接での体験、職場の空気感、発信されている情報から滲み出るものが、求職者の判断を左右します。
採用において「賃金を上げれば解決する」という発想は、最低基準をクリアするための思考としては正しい。しかし、それだけでは選ばれる理由にはなりません。
●「条件」で集めるか「文脈」で選ばれるか
賃金競争は、体力勝負です。
大手企業と同じ土俵で戦えば、中小企業は構造的に不利です。そしてその差は、少子化と人口減少が進む中で、今後さらに広がっていきます。
しかし採用の現場で見えていることがあります。
賃金が突出して高いわけではないのに、人が集まり、定着している企業があります。
その企業に共通しているのは、「なぜここで働くのか」という問いに、自分たちの言葉で答えられることです。
給与以外に何を提供できるか。職場の人間関係をどう育てているか。仕事を通じて何を感じてもらえるか。
これらが言語化され、採用の設計に組み込まれている企業は、「条件」ではなく「文脈」で選ばれています。
「文脈」で選ばれた人は、条件が変わっても簡単には離れません。なぜなら、その会社にいる理由が「給与」だけではないからです。
●採用の問いを変える
「どうすれば給与以外で人を惹きつけられるか」という問いは、採用の本質に近い問いです。
それは言い換えれば、「うちで働くことの意味を、どう言語化するか」という問いです。
この問いと向き合うことなく、給与の数字だけを動かし続けても採用の構造は変わりません。
採用がうまくいっている企業は、この問いを持っています。給与の話の前に、「なぜここで働くのか」を自分たちで言える企業です。
賃金を上げることと、文脈をつくること。どちらか一方ではなく、両方が必要です。しかしその順番は、「文脈をつくることが先」だと思っています。
あなたの会社は、給与以外の「選ばれる理由」を持っていますか?
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株式会社Katawaraは、「採用で、経営を変える」をテーマに採用支援を行っています。
「給与以外で選ばれる採用設計」「自社の文脈の言語化」など、賃金競争に頼らない採用戦略の構築を一緒に考えることも、私たちの支援の一つです。お気軽にご相談ください。
